小沢 靖 ソロCD

2008年2月6日、50歳の若さで逝った「不失者」のベーシスト、小沢靖氏の未発表音源。
文京区シビックホール地下の音楽室にて2000年7月30日に収録。
録音に立ち会ったのはエンジニア2人とプロデューサー役の私(大塚)の3人だけ。4時間にわたって気の向くままに演奏してもらいました。
このCDは、当日の演奏から切り出した13トラック、41分55秒。小沢靖個人として唯一のソロアルバムです。本当に欲しい方にだけ頒布いたします。



some fragments of bass performance 』 : OZAWA YASUSHI

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■いきさつなど■

★録音まで
小沢氏と私は25年以上の友人でした。S&Rマガジンを立ち上げ、製作記事を共著し、儲からない会社を経営し、PCブランドの創設を画策し、・・・・・等々、様々な意味で「相棒」として過ごしてきました。
この録音がなされた2000年頃は、彼が勤めていた専門学校に私も講師として入り、電気音響について分野を分担して教えていました。さらに、意欲ある学生のために、学校の授業とは別に「録音会」のようなものを定期的に行なっていました。ある日、彼が「音源になってあげようか」と口を滑らせ、居合わせた私とレコーディング専攻の学生たち(不失者のファン)が「ぜひ、ぜひ!」ということで、彼の最初で最後のソロを録ることになりました。もちろん、これが「最後」になるとは夢にも思っていませんでしたが。
ただし条件がありました。彼の言葉を思い出せる限り再現すると、「出しちゃった音は出ちゃったものだから、どう使われてもしょうがないけど、公表するのはちょっとね。知ってる人に渡すのはいいよ。俺が生きてる間はそうしてくれる? 死んだらどうでもいいけど」
死んだらどうでもいいのは私も同じですから、そのときは軽く納得しましたが、今になってみると、どうにもやりきれない重さがあります。

録音当日、彼はフル装備で来てくれました。弦を張り替え、エフェクタやサンプラを大量に持って、どうやって一人で運んだの?というほどの大荷物でした。また、常に待ち合わせに遅れる彼が、その日だけは15分前に現れました。いつもの「講師」としての小沢靖ではなく、ミュージシャンとしての彼でした。音を出し始めてわかったのですが、サンプラにはこの日のために用意した音源素材が多数入っていました。

★スタジオで
特に何の取り決めもなく自由に音を出してもらい、出音をなるべくリアルにリニアに収録しました。アンプからの音はBK4006とATS400で拾いました。ラインアウトは自作ステレオDIを2台使って卓(Studer269)に立ち上げ、卓からのステレオアウトは自作デバイダで3本に分けて3台のDATで同時に録りました(メイン2台、サブ1台で、サブのレベルは3db下げです)。コンプの類は一切使っていません。
以上は私の担当でしたので録音時のメモもあり、確かなことです。一方、彼のセッティング(使用エフェクタ・サンプラ、それらのつなぎ方)は非常に複雑で、記憶は曖昧です。途中で何度か変更したことだけは覚えています。

最初はマイクメインで録りました。CDではトラック1〜2がその部分です。その後「弦の生音はあまり入れたくない」というリクエストがあり、ラインをメインにしました。とはいっても、スタジオで鳴っている音をなるべく忠実に収録するのが基本であることに変わりはありません。

4時間のレコーディングが終わって、素材のDATテープを渡そうとすると、「まとめてくれる?」でしたので、私が持ち帰りました。

★マスタリング
普通の音楽なら、マスタリングはセンスと技術で乗り切れます(それなりに大変ですが)。しかしこの録音は、謂ってみれば思念の連続体でした。”小沢的ひとりごと”が4時間続いたもの、でもあります。その文脈をなるべく崩さずに1枚のCDに仕上げることを最優先の課題にしました。
技術的には、積極的なEQは使わず、コンプは瞬間的なピークを抑えるだけにとどめました。つまり、スタジオで鳴っていた音を、そのままCDに移すべく努力しました(これはそもそも不可能ですが)。ですから、このCDのダイナミックレンジは非常識に広くなっています。コンプで圧縮すれば”一般向き”になりますが、敢えてしていません。

作業が一応終わって、焼いた板を彼に渡しました。すぐに聴いてくれたようで、その晩(夜中)電話があり、「いいと思うよ」でした。ミュージシャンがOKすれば完成です。その後、波形データは変えていません。


■付記■

★リリースすることについて
以下、私の愚痴になりますが書かせてください。
「ほんとに公表していいの?」という迷いがあります。彼は、普通の会話の中では「冗談」をほとんど言いませんでした(ジョークは別です)。また、とても重要なことをサラッと言ったり、核心を突く事柄を軽い調子でグサッと言ったりもしました。ですから彼の「死んだらどうでもいい」は本音と受け取って構わないでしょう。(「生きてる間はダメ」なのは、あるいは何かの法的な契約があったのかもしれませんし、音で彼の内側を表現することになるので恥ずかしかったのかもしれません。私的には後者だと感じています)。

私が何故迷っているのか、、、多分、彼が死んだことを認めたくないからです。
反面、小沢靖という非常にノーマルな「変人」が存在した証拠を世に知ってもらいたい願望もあります。不失者で灰野さんのバックで鳴っていたのは小沢の”ひとつの音”であって、彼の本質(の、これまたひとつ)は別の世界であり、別の情念であったことを知ってほしい気持ちもあります。
このへんは自分でも未整理ですし、きっとこれからも整理不能でしょう。

ひとつ言えるのは、フリーミュージックに興味がある方や、不失者のファンだった方には、この音源は貴重であろう、ということ。それを思えば、私が個人で秘匿し通すことは許されない、とも考えます。
そこで、私の心の中のもやもやしたセンチメントを切り離して、生きて動いている小沢が出した音をリリースします。
ご遺族からは音源を公表する許可をいただいています。

★お願い
このCDの内容は「フリーミュージック」に分類されるものです(音楽の「分類」など、本当はナンセンスですが)。一般的な、ラジオやテレビで鳴っている楽曲とは耳ざわりが違います。この点にご理解のある方のみご購入ください。

★付記の付記
「CDは40分くらいが上品だね。長いと聴いてて飽きる」・・・・・と彼はよく言っていました。それにしては不失者には長いのがありますね。その辺を質すと「切れないときもあるのさ」。ま、ごもっとも。このCDは彼の持論に従って「上品な」長さにまとめています。
「ポンドなら20ポンド、ドルなら20ドルくらい。そのくらいの値段ならCDは買う気になるし、買った気になる。相場っていうものでしょ。高いのは俺でも迷うし、安いのはマスタリングがダメだろうと思うね」とも言っていました。ですから、このCDも2000円とします。