History of Recordingのタイトル



[番外編]

★AESコンベンション見聞記★

 今月は連載をお休みして、9月26日〜29日の間ニューヨークで開催された AES コンベンションの機材展示会のレポートをお届けします。客観的な紹介は来月号のサンレコを見ていただくとして、ここでは、個人的に興味のあるものだけを紹介したいと思います。ですから、Mac 関係なんかはありませんし、会場で一番人気だった Mackie の DIGITAL 8・Bus も無視します。ALESIS の M20 もなし。エフェクターも1点だけ。現場写真もありませんが、可能な限りカタログから転載しましたから、相変わらずグラフィック・ヘヴィーなページになってしまいました。ご容赦を。

■ところでAESってなに?

 この記事の読者なら、AESが何なのかいちいち説明する必要はないような気もしますが一応おさらいしておくと、AES は Audio Engineering Society の略で、全世界のオーディオ・メーカーと研究者とエンジニアの団体です。元々レコード業界の人間が集まって作ったため、メーカーもプロ・オーディオ関係がメインです。
 と、まぁこのへんは常識の範囲内ですが、AESの前身が、戦前のサファイア・クラブという団体だったことを知っている人は少ないでしょう。私ももちろん知りませんでした。このサファイア・クラブというのは、戦前・戦中の物資欠乏期に、レコードのカッティングに必要なワックス盤やラッカー盤とサファイア針の安定入手のために、レコード会社やスタジオの人間が集まって作った団体だったそうで、なんとも時代を感じさせる話です。今年はAESが設立されて50周年なので、そんな昔話があちこちの雑誌に載っていて楽しめます。
 この AES が毎年開くイベントが AES コンベンションで、論文発表中心のテクニカル・セッション、パネリストの討論とQ&Aのワークショップ、それに機材展示会の3つが柱になっています。通常、雑誌なんかで紹介されるのは機材展示会ですが、中身が濃いのはテクニカル・セッションやワークショップのほうです。とは言え、テクニカル・セッションやワークショップは朝8時から夜6時まで複数の部屋で同時進行する過密スケジュールなので、残念ながら取材は諦めました。結局のところ、展示会の全ブース・約300ヶ所を回って写真撮って歩くだけでもほぼ3日間が潰れてしまったので、今回はオフ日どころかフリー・タイムもほとんどなし。取材最終日に、会場に行く途中に寄ったヴァージンでCD2枚と雑誌2冊買っただけでした。以前、楽譜を買ったことがある Colony の奥がLPコーナーなので通りがかりに一応覗いてみましたが、マーキュリーの Living Presence 物なんか、大した盤でもないのに平気で $60 とかついているのに閉口して、早々に退散。ひたすらお仕事の毎日なのでした。
 今回の会場は、ニューヨークはミッドタウンのハドソン川沿いにある Jacob K. Jabits Convention Center で、4日間有効の全イベント入場券は$350、1日券は$175、4日間有効の展示会オンリーの入場券は$40という料金でした。結構お高いので一般人はいません。しかし初日の登録カウンターの前には長蛇の列ができていて、一時期は30分待ちくらいになったようです。何でこんなに登録に時間がかかるのかと思ったら、登録用紙に書かれた住所や E-Mail アドレスなんかを全部端末で打ち込むんですね。入場券がわりのネーム・カードが簡易磁気カードになっていて、打ち込んだデータは全部ここに記録されます
 で、展示会場の各ブースには磁気カード・リーダーがあって、資料請求なんかはこれを使って一発、という次第。日本の展示会みたいに大量の名刺を持って歩かなくてもいいのは嬉しいんですが、この簡易磁気カード、見るからに安物で、なかなかうまく読み取れなくて「えーと、じゃぁ、名刺あります?」になってしまうこともありました。また、この磁気カードを使って請求した資料が届き始めたんですが、宛先ラベルを見ると、よくこんなんで着いたなぁ、ってのもあってかなり不安。もし登録時の打ち込みが間違ってると全滅の可能性もあるリスキーなシステムなのでした。


■マイク

Coles 4038
coles 4038  さて、まず個人的に一番の注目は Coles の 4038。新製品どころか50年代からあるイギリス製リボン・マイクです。1951 年に BBC が Marconi(STC) と共同開発した PGS 型が原型で、今でも BBC では現役です。リボン・マイクと言えば RCA 製が有名ですが、BBC/Marconi は1930年代初頭、RCA とほぼ同時期にリボン・マイクを実用化して以来、改良を続けていたのです。その由緒正しい血筋の 4038、本国イギリスでは入手困難なのに、アメリカでは通販で手にはいっちゃうのが妙なところ。以前から AEA が小さな広告を出し続けていましたが、AES では AEA と Independent Audio が展示していました。お値段は Independent Audio で $1195。AEA はもうちょっと安いかも。イギリスでも最近 HHB が扱いだしたようです。
 以前から気になっていたマイクなんですが、現物を初めて見たのは去年、BBCでの灰野敬二/デレク・ベイリーのデュオの録音(徳間から出ているCDとは別)の折で、BBCのエンジニアは、デレク・ベイリーのギター・アンプ(ポリトーン)のネット前10cmくらいにこの 4038 をセットしていました。私が「うわぁ」と驚いていると、エンジニアは「いいマイクだよ、これは。とてもナチュラルで」と、ちょっと得意そうに話してくれました。双指向性なんで、ちょっと使い方が難しいんですが、試してみる価値はあるでしょう。日本では Heavy Moon でレンタルできます。
 AEA では、RCA の 44 や 77 の交換パーツも作っているので、44 のボディーだけ、という妙な物も売っています。外観だけ 44 で、中身は松下のエレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットというのもいいかも。

 真空管マイクは、中国・旧ソ連・東欧諸国などの部品メーカーが本格的にパーツ供給を始めたせいもあって、各社から出展されていました。

Dirk Brauner VM-1
Dirk_Brauner VM-1  Dirk Braunerの VM-1 は、ブルース・スウェディーン御大のお墨付きで注目株なんですが、単独ブースはなく、ASC(チューブ・トラップという円筒形吸音材で有名なところ)のブースに何気なく立っているだけでした。こいつはドイツ製で、球はテレフンケンの EF806S。ステレオ版の VM-1S もあり。

Lawson L47
Lawson L47  Lawson(コンビニのローソンと同じスペルだ)の L47 シリーズは、名前から想像できるとおりノイマン U47 をベースにした真空管マイク。球は 6072。カプセルは M7 のリメイクで、これって中国製のやつかなぁ? 単一指向性の L47C と可変指向性の L47MP があり、直販オンリーで L47C が $1695、L47MP が $1995 というお値段です。

B.L.U.E.
B.L.U.E.  B.L.U.E.(Baltic Latvian Universal Electronics)は、バルティック・ラトヴィアンというメーカー名が示すとおり、旧ソ連の崩壊によって西側に出てきたメーカーです。ここの製品は、U47 どころか、もっと古いノイマンの CMV-3(通称ノイマン・ボトル)みたいな "The Bottle"($3995) と、そのカプセル B-7($795)。カプセルのほうは、ノイマンの KM84 や AKG の C451 のような小口径コンデンサ・マイクのボディーに取り付けて大口径マイクに変身させましょう、というわけですが、このアンバランスさはちょっと凄い。いっそ B&K 4006 のボディーに付けたら…。

AKG SOLIDTUBE
AKG SOLODTUBE  AKG の新製品はやはり真空管マイクで、その名も SOLIDTUBE。単一指向性オンリーで、球は ECC83。ボディーの AKG マークは窓になっていて、ヒーターの灯が見えるという趣向です。付属品とフライト・ケース込みで $1500 と比較的低価格に設定されているのが特徴。

Soundelux U95
Soundelux U95  Soundelux は結構有名なポスプロ・スタジオですが、ここが出しているのが U95 という真空管マイク。単なる昔のリメイクではなく、ノイズ特性などを現在の水準に合わせて改良した現代的な球マイクです。可変指向性(9パターン)で、価格は $2900。姉妹品で、FETプリの単一指向性マイク U195 もあります。

CAD VX2
 Equitek シリーズのコンデンサ・マイクで有名な CAD は、新設計の真空管マイク VX2 を出品。可変指向性のデュアル・ダイアフラム・マイクですが、ダイアフラムの成極電圧で指向性を変える普通のデュアルと違って、各ダイアフラムに独立したプリ・アンプを持たせて、パワー・サプライ内のマトリクスで指向性を変えるようになっています。価格は $1999。オプションで、パワー・サプライに 96kHz/24bit の A/Dコンバータを内蔵できるようになっているのもユニークなところですが、スペックを見るとおそらくクリスタル・セミコンダクタの CS5396 を積んでいるんでしょう。

Neumann TLM-103
Neumann TLM-103  FETプリの一般コンデンサ・マイクでは、ノイマンの TLM-103 が目玉でしょう。プロジェクト・スタジオのメイン・マイク狙いです。ここ数年で爆発的に増えたプロジェクト・スタジオ向けでは $1000 以下のマイクが売れ筋なので、TL-103 は $995 という値付け。ノイマンの大口径コンデンサ・マイクでは最低価格です。そのかわり単一指向性オンリーで、PADもロー・カットSWもなし。ルックスはご覧のとおりで M49 みたい。高さは13cmほど。スペック的に凄いのは、等価雑音レベルが 7dB-A(IEC651)というところで、これって U87 (12dB-A)よりも低いぞ。また、最大入力音圧レベルも 138dB SPL と、PAD 入れた U87 よりも強いです。さては感度下げたか、と思うと U87 より 2.5dB 低いだけ。f特は、4kHzから上を棚状に持ち上げたブライト指向。このスペックで、AKG C414 や Rode NT-2 に対抗しようという戦略です。ただノイマンは、楽器店などアマチュア向けの販売網が弱いので、どこまで普及するか。発売は来年初頭の予定です。

Josephson C700A
Josephson C700A  まだ日本に入っていないメーカーの中では、この Josephson Engineering が注目株。測定用マイクと録音用マイクの両刀使いのメーカーで、ここの C700A は無指向性カプセルと双指向性カプセルを1本のボディーに収めた可変指向性コンデンサ・マイクです。各カプセルの信号は別個に出力されるので、卓のMIXで指向性を変えられます。別トラックに録音しておけば、トラック・ダウン時に指向性を選ぶこともできるという案配。価格は $3300 で、ステレオ版の C700S(カプセル3個独立出力・$4400)もあります。


■マイク・プリ

 マイク・プリは真空管/ディスクリート、どちらも沢山の製品が市場にあふれています(少なくともアメリカでは)。そんな中で個性を出すためには、EQやコンプといったエフェクターまで組み込んで付加価値をつける方向に行くのは当然の流れでしょう。

Manley VOXBOX
Manley VOXBOX  マンレイの真空管ものの集大成みたいな VOXBOX は、マイク・プリ+コンプ+EQ+ディエッサー+ピーク・リミッターという構成。全部球で $4000。バラで買い揃えることを考えればお買い得なのかもしれないけど、モノで3Uという大きさは、なかなか圧迫感があります。名前のとおりヴォーカル録りに重点を置いた設計ですが、楽器に使ってもいいでしょうね。

AVALON VT-737
AVALON VT-737  クラスA・ディスクリート・プリで売った AVALON も流行りに乗ったか真空管ものを出してきました。VT-737 は真空管マイク・プリ+真空管コンプ+トランジスタEQという構成のハイブリッド型。価格は $2190 と AVALON にしては意外に安いです。

Millennia Media M-2A
 同じくディスクリート・マイク・プリで有名な Millenia からも真空管マイク・プリが出ました。こっちは非常に現代的な発想で全段トランスレス&バランス構成。余計なものはなんにも付いていないシンプルな製品です。

Drawmer 1962
Drawmer 1962  逆に、真空管を色付けに使うことに徹したのが Drawmer の新製品 1962。石のマイク・プリ+EQにチューブ・ドライブをつけ加え、さらに48kHz/24bit のA/Dコンバータまで一体化した製品です。A/Dコンバータ部を外したアナログ・オンリー・バージョンもあり。

ART TUBE PAC
ART TUBE PAC  一方、安い真空管ものも盛んで、ART の TUBE PAC は、結構売れた同社の TUBE MP に 球コンプを合体させた製品。球はお馴染み 12AX7A です。

Bellari RP520
Bellari RP520  前作 RP220 で、ある意味では、安い真空管プリの先鞭をつけたと言える Bellari は、ちょっとしょぼくて、RP220 にメーターつけただけの RP-520 を出してきました。ステレオ・マイク・プリとしての性能は RP220 と同じで $600。ちなみに RP220 は $500。メーターとパネル仕上げの違いで $100 か…。

MARTECH MSS-10
MARTECH MSS-10  もちろん「石派」も健在で、Martin Sound の子会社 MARTECH の MSS-10 は、ご覧のルックスのモノ・マイク・プリで $2250。4個並べてラック・マウントも可。

Nightpro PreQ3
Nightpro PreQ3  エアバンドEQが売り物の Nightpro からは、4chマイク・プリにご自慢のエア・バンドEQを装備した PreQ3 が出ていました。エア・バンドEQというのは、コーナー周波数を 40kHz まで持って行けるシェルビングEQ(ブースト・オンリー)です。マスタリングの時なんか、よく 10kHz 以上をちょいとブーストしたりするけど、あれの応用ですね。使いようによっては毒にも薬にもなります。

CRANE SONG FLAMINGO
CRANE SONG FLAMINGO  どちらかと言えばエフェクター・メーカーの CRANE SONG が、ステレオ・マイク・プリを出してきました。基本はディスクリート・クラスA動作なんですが、さすがにエフェクター屋さん、ひとひねりあって、"SOUND" と "IRON" という2つの音色選択スイッチがついています。"SOUND" はアンプの種類を変え "IRON" は信号系に鉄(おそらくはトランス)を挿入するというもの。来年春の発売予定です。

Grace Design Model 201
Grace Design Model 201  日本に入っていないメーカーでは、Grace Design が 8ch の Model 801 ($3995)と 2ch の Model 201で有名です。ルックスのとおり、クリア系のようです。

Great River Electronics MP-2 / MP-4
Great River Electronics MP-2/MP-4  これは Josephson のブースにあったやつで、写真を見れば分かるとおり、とっても自作っぽい製品です。トグル・スイッチはパネル直付けだし、GAIN のロータリー・スイッチ(24ポジション)のナットは見えてるし…。なんか見ててニヤニヤしちゃいますね。ここでは、このマイク・プリの完成基板売りもしているので、興味のあるかたはホームページに行ってみて下さい


■エフェクター

 エフェクターは似たようなのが多くて食傷気味なので、思い切って1点だけ変なのを。

CRANE SONG HEDD
CRANE SONG HEDD
 マイク・プリのところで紹介した CRANE SONG ですが、やはり本業はこっちでしょう。でもやっぱり変で、この HEDD (Harmonically Enhanced Digital Device)、DSPによる真空管シミュレータなんですね。それ自体はギター用エフェクターなんかに組み込まれているエフェクトですが、ツマミが "TRIODE"(三極管)と "PENTODE"(五極管)だし、アナログ/デジタル両入出力があって、このどういう組み合わせにもエフェクトをかけられるというのが、かなり変です。つまり、単なるエフェクターじゃなくて、エフェクト付きA/Dコンバータとかエフェクト付きD/Aコンバータとしても使える、というわけ。便利なんだか邪魔なんだかよく分からん。


■A/D コンバータ

 A/Dコンバータのトレンドは、96kHz/24bit対応です。DVD がどの程度売れるか分からないものの、とりあえずハイエンドはここなので、石の本格供給が始まったのを受けて各社とも、先行する dCS、DB Technologies の追撃体勢に入っています。
 ただし、ユーザーはスペック競争だけに目を奪われないように。48kHz/16bit だって難問山積みなのに、96/24 になったらどういうことになるか、多少なりともデジタル・オーディオをいじったことのある人なら分かるでしょう。同じ石を使っても同じ性能が出るわけじゃありません。デジタル・オーディオでは実装技術も大きなファクターを占めています。少なくとも、ジッタのFFTプロットが出せないようなメーカーの製品は眉に唾をつけてかかるべきだろうと思ってます。

MYTEK DIGITAL ADAC9624
MYTEK DIGITAL ADAC9624  比較的低価格なのは、MYTEK DIGITAL の ADAC9624。96/24 の A/D と D/A が一体化された製品で $3995。また、オプションの adat I/F や DA-88 I/F を使うと、Prism の MR-X フォーマットで 96/24 のまま記録できます(どちらも $595)。A/D の石はクリスタル・セミコンダクタの CS5396 です。ユニークなのは、オプションで SCSI I/F が用意されている事で、HDD をつなげば本体だけで HDR ができちゃう。ファイル・フォーマットは AIFF か WAV が選べるそうで、最近流行りのリムーバブル・ケースを使えばそのままパソコンに持ってきて編集できてしまいます。ただ残念なのは $1995 とオプションにしては高すぎること。本体にはインテリジェントな機能が全然ないんで、ほとんどパソコン1台分の値段になっちゃうんですかね。MYTEK からは 8x24ADC と 8x24DAC という8chの A/D、D/Aも出ていて、どちらも $2995。96kHz Ready だそうです。

SEK'D 2496
SEK'D 2496  これも 96/24 対応の A/D と D/A の一体型ユニット。価格は未定。SEK'D だから、そんなに高くはないでしょう。

Prism Sound AD-2, DA-2
Prism Sound AD-2,DA-2  24bit A/D の AD-124 や D/A の DA-1 を出していた Prism Sound は、早速 96kHz の AD-2 と DA-2 を投入。

dCS 904/954
 これに対して dCS が出してきたのは 192kHz/24bit の A/D コンバータ 904 と D/A コンバータ 954。どちらも価格は $12,000 です。今んとこ、この出力をそのまま記録できるのは Nagra の Nagra-D だけ。デモ・ルームでの試聴は、アナログ30ipsとの比較試聴でした。

Benchmark Media
Benchmark Media  ここはまだ日本に入っていませんが、去年出した 20bit 4ch A/Dコンバータ AD2004 ($2200)で評判をとったメーカーです。今回出してきたのは、AD2004 とペアになる D/A DAC2004 と、AD2004 の 8ch版 AD2008。価格は、DAC2004 が $2200、AD2008 が $3950です。で、この流れから想像できるとおり、次の製品は 8ch D/A の DAC2008 で、その次が AD2004 と DAC2004 を一体化した ADA2004 だそうです。なんと安直な…。でも、これが成立するのは、やはり最初の AD2004 が評価されているからでしょう。

Tracer Technologies Big DAADI
Tracer Technologies Big DAADI  Flying Cow の上のランクの製品が、Tracer Technologies の Big DAADI で、20bit A/D と D/A 一体の 1U ユニット。価格は $599。

TROISI DC224ADC
TROISI DC224ADC  これはちょっと番外。確か TROISI ってのは API ライクなEQなんかを出してたとこだったと思うんですが、いつの間にか A/D と D/A のメーカーになってました。その名も "Digital Companion" というシリーズで、ハーフ・ラックの 2ch A/D、D/A、それに 1U の 8ch A/D と D/A を揃えてます。いずれも量子化ビット数はモジュール交換で変えられるんですが、A/D なんか 16bit版が $1840、24bit版が $1950じゃ、誰も 16bit版なんか買わないと思うぞ。しかも、16bitから 24bitへのアップグレード・モジュールが $470じゃ、ますます。また、新製品らしい DC224ADC は、カタログを良く見たら裏パネの写真が説明と違うし、さりとて説明どおりのコネクタが全部つくスペースはなく、かなり謎な機械になってます。だいじょぶかいな。


■パソコン関連

 パソコン関連で目についたのは、デジタル・オーディオ・インターフェース・ボードの低価格化。しかし、いまだにボードにアナログ入力をつけているところが多いのは理解に苦しみます。ノイズの巣みたいなパソコンの、それもこともあろうに最大のノイズ源のビデオ・ボードのすぐそばに刺さるPCIボードにアナログ・オーディオ回路をいれる神経が分かりません。パソコン用オーディオ・ボードの雑音特性の実力チェックは、-60dBFSくらいの小信号を録音・再生してヘッドフォンで聴いてみるといいでしょう。無信号時のノイズ比較は、出力にアナログ・ミュートのついているボードに騙されますからNG。通常は画面の書き換えに同期したノイズが聞こえるはずです。アナログ出力は簡易モニター用と割り切れば、それはそれで便利ですが、アナログ入力は仕事には使えません。
 なお、パソコンの世界では、アナログ・オーディオ入出力しかないボードもデジタル・オーディオ・ボードとか呼んだりするので混乱しますね。困ったもんだ。
 というわけで、ここでは、アナログ入出力ボードは 4ch だろうが 8ch だろうが無視。デジタル入出力がついているボードだけ紹介します。

Aardvark Studio 12! , Studio 88!
 エクスクラメーション・マークは製品名の一部です。私がビックリしてるわけじゃないので誤解しないで下さい。で、以前からアナウンスは出ていた Aardvark の PCI adat I/F が Studio 12!。I/O は、adat、S/PDIF(同軸)、S/PDIF(光)、AES/EBU、ステレオ・アナログ(1/4" Unbal)。このうち、adat と S/PDIF(光)は同じコネクタで切り換えですが、AES/EBU は同軸で出すようです。
 一方、本当にビックリしたのは、アナウンスがなかった Studio 88! のほうで、これは PCI TDIF I/F です。つまり DA-88/38 用ですね。基本仕様は Studio 12! と変わらず、S/PDIF(光)も付いてますが、さすがに TDIF のコネクタつけるとアナログ用 1/4" フォーンがつかなくなったので、これは D-sub で外付けケーブルになってます。どちらもドライバは Windows 95用しか付きません。

Sonorus STUDI/O
 こちらは2系統の adat I/F を備えたボードで、どちらもソフトで S/PDIF に切り換え可能です。でも S/PDIF のくせに 24bit 対応って書いてあります。S/PDIF じゃ 24bit の送受はできないのにね。光コネクタに AES/EBU フォーマットの 24bit データが来たら受けてくれるのかもしれませんが、ちょっと不安。アナログはモニター用に出力だけで、ステレオ・フォーン1系統。さすがにちょっと高くて $989。一応 Win95/Mac 両用ですが、Win95は Pentium 200MHz、Mac は PowerPC 604e 180MHz がご推奨で、さらにどちらも RAM 64MB と Ultra Wide SCSI を推奨する、とあります。また、Mac では Cubase VST にしか対応していません。

Glyph Dig-o-matic
 Gryph は、ラック・マウント SCSI ドライブを出しているメーカーですが、その Glyph 初の PCI ボードは、シンプルな S/PDIF I/F ボードです。コネクタは同軸オンリーですが、こちらもカタログには 24bit に対応しているとあります。価格は $399。基本的に Mac 用で Sound Manager コンパチだそうですが、Windows にも対応しているそうです。

SEK'D PRODIF 24
 Samplitude で有名な SEK'D とディストリビューターの Hohner MIDIA が合併して、SEK'D の名前で活動する事になりました。その SEK'D の PRODIF 24 は、AES/EBU または S/PDIF 対応の ISA ボードで、コネクタは 3P フォーンと光コネクタを装備。名前の通り 24bit 対応で $399。モニター用にアナログ出力(ステレオ・フォーン)もついてます。

MIDIMAN DiO
 MIDI I/F のイメージが強かった MIDIMAN も、最近はオーディオのほうに手を広げてきています。DiO は、S/PDIF & AES/EBU 対応の ISA ボードで、S/PDIF は同軸、AES/EBU は外付けケーブルで対応します。24bit 対応で、モニター用アナログ出力付きで $349.95。これが今のところ最低価格のデジタル・オーディオ I/F ボードということになります。実売価格がどうなるかは分かりませんが。

Applied Magic OnStage
 4ch のアナログ・バランス入力を売りにしているボードですが、前述のとおり、そんなものはどうでもよろしい。とり上げた理由は、AES/EBU の入出力と、SMPTE I/F(LTC I/O、VITC IN)、MIDI I/F がついてるところです。ただし、Windows NT用。

Digigram PCXpocketAD
 フランスに本社を置く Digigram は、DSP による MPEG エンコード/デコードを売りにしているPCボード・メーカーで、あまり馴染みがありませんが、ここが出した PCXpocketAD は、私が知る限り唯一の S/PDIF 入力のついた PCMCIA カードです。姉妹品のPCXpocketは、アナログ・オンリーなので間違えないように。ただ、相変わらず DSP 積んで MPEG エンコード/デコードなんかやってるんで、高いはず。いったい、いつになったら単純なデジタル・オーディオ I/O オンリーの安い PCMCIA カードを出してくれるんでしょうか。どっか出しません?


■半導体

 AESですから、プロ・オーディオ関連の半導体メーカーも出展しているわけで、96/24 対応の A/D、D/A コンバータでしのぎを削るクリスタル・セミコンダクタ、旭化成マイクロシステムズ、アナログ・デバイセズの3社が揃い踏みでした。老舗バー・ブラウンは、96/24戦争では後れをとっていて出展もなし。各社の 96kHz または 24bit 対応の石をリスト・アップしておくと【( )内はDレンジ、[ ]内は1000個時の参考価格】

クリスタル・セミコンダクタ:
・CS5396 : 96kHz/24bit ADC (120dB)[$26.00]
・CS5394 : 48kHz/24bit ADC (117dB)[$20.00]
・CS5360 : 48kHz/24bit ADC (105dB)[$7.50]
・CS4390 : 48kHz/24bit DAC (106dB)[$5.30]

旭化成マイクロシステムズ:
・AK5352 : 96kHz/20bit ADC (104dB)
・AK5391 : 48kHz/24bit ADC (113dB)
・AK5392 : 48kHz/24bit ADC (115dB)
・AK4321 : 96kHz/20bit DAC (100dB)
・AK4324 : 96kHz/24bit DAC (105dB)

アナログ・デバイセズ:
・AD1855 : 96kHz/24bit DAC (110dB,48kHz時は113dB)[$5]

 こういう風に石が揃ってきた上に低価格化が進んでいるからには、今後、ガレージ・メーカーも含めて各社から 96/24 対応製品が出てくることが予想されます。その時は、カタログのダイナミック・レンジの項を見れば、だいたいどこの石を使っているか見当がつくでしょう。どうあがいても、使っている石以上の性能は出ないわけですから。
 この他、ナショセミとモトローラもブースを出していましたが、ナショセミはもっぱらマス・マーケット狙いだし、モトローラはDSPだけなので割愛。

■その他

HDCD Model One
HDCD Model One  先日日本にもプロモーションにやって来た HDCD のブースがあったので、HDCD の詳細が分かりました。内外の雑誌にも一応解説が載っていましたが、どうもイマイチ明解じゃなかったんで、これでスッキリしました。HDCD エンコーダ Model One は A/D を内蔵していますが、この出力は 88.2kHz/24bit です。ここでは特殊なことはやっていないので、外部の 88.2kHz/24bit A/D を使うことも可能。96/24 には来年出る Model Two で対応予定です。エンコーダでやってる処理は基本的に3種類。

(a)入力信号のスペクトルを分析して、88.2kHz->44.1kHz ダウン・サンプリングの際のアンチ・エイリアシング・フィルターの特性を刻々と変化させる
(b)リミッタでピークをつぶしてゲインをアップ(6dBまで)
(c)-45dBFS〜-65dBFS の信号を 4dBアップ

(a)は DAC でやっている製品もあるし、(b)と(c)はDレンジの両端だけに効くコンプで、入出力特性のカーブで言えば、中央直線部分の長いS字特性みたいな感じでしょう。(b)(c)はエンコード時に ON/OFF 可能です。こういった処理はアナログ時代にもあった技術ですが、いかにもデジタルなのは、この3種類の処理のパラメータをオーディオ・データの LSB に埋め込んで、再生時に専用デコーダで元データを復元できるところ。専用デコーダがなければ、LSB のデータは単なるディザになりますし、(b)(c)の処理はDレンジの狭い再生機器にうまくフィットします。原理が分かれば「なーんだ」ってなもんですが、こういうワザは普通の録音やマスタリングにも応用が効きそうで、特にS字コンプは、邪道だけど効果的だと思います。

Furman PlugLock
Furman PlugLock  アクセサリー部門のピカイチは、Furman の PlugLock。差し込んだACアダプターをしっかりロックする電源タップで、ラックの裏なんかにどうぞ、という製品。普通のプラグでも抜け止めになります。サーキット・ブレーカー付き。カタログには "Imported" とあるので、どこかの OEM でしょう。日本製だったりして。

Precision Audiotronics
Precision Audiotronics  イン・イヤー・モニターは海外では各社が出していますが、ここはイン・イヤー・モニターとともに Hi-Fi 耳栓を作っています。何が Hi-Fi なのかと言うと、耳栓をしても帯域バランスが変わらないようにできているのです。普通の耳栓は高域の減衰が激しくてモコモコの音になりますが、ここの耳栓なら大丈夫というわけ。大音量から耳を守るために、耳栓をしたミュージシャンやエンジニアが増えている情況に対応した製品です。一般の耳栓より遮音性能は低いので、完全に音を遮断したい用途には向きません。基本的にカスタム・モールドなので日本で買うことはできませんが、こういう製品もある、ということで。ちなみにお値段は $119 です。



  と、ごく主観的な選択でいくつかの機材を紹介しました。より詳しい内容は以下のサイトをご参照ください。

●記事中に登場した各社のサイト(登場順)へのリンク

★AES
 AES

★マイク
 Audio Engineering Associates(AEA)  -- まだ工事中でほとんど中身はありませんが…
 HHB Communications (UK)
 Heavy Moon -- あの蛍光ピンクが恥ずかしいレンタル価格表と同じ内容ですが、
           販売代理店をやっている製品の情報もあります。
           HDCD もここが代理店ですが、まだオンライン情報はありません。
 Dirk Brauner
 Lawson
 B.L.U.E. Microphone
 AKG Acoustics
 Soundelux  -- 本社サイトですがマイクの情報はまだありません。
 CAD
 Georg Neumann GmbH  -- ノイマン本社サイト。
                TLM-103に関しては Neumann USA よりも詳しい資料があります。
 Josephson Microphones

★マイク・プリ
 Manley Labs
 Avalon Design 
 Millennia Media
 The Drawmer Factory Web Site  -- 2つあるサイトのうち、こちらのほうが情報が新しいようです。
 ART (Applied Research & Technology)
 Bellari/Rolls
 MARTECH
 Nightpro 
 Crane Song  -- ボストンのディーラーのサイト。
             記事中で紹介した製品の情報はまだありません。
 Grace Design
 Great River Electronics

★エフェクター
 Crane Song  -- ボストンのディーラーのサイト。
             記事中で紹介した製品の情報はまだありません。

★A/D コンバータ
 dCS  -- USA代理店 Canorus のサイト。
 DB Technologies
 MYTEK DIGITAL
 SEK'D
 Prism Sound
 Benchmark Media
 MIDIMAN
 Tracer Technologies
 TROISI

★パソコン関連
 Aardvark Professional Audio
 Sonorus
 Glyph
 SEK'D
 MIDIMAN
 Applied Magic
 Digigram

★半導体
 クリスタル・セミコンダクタ
 旭化成マイクロシステムズ  -- 米国サイト。国内サイトはありません。Why?
 アナログ・デバイセス

★その他
 HDCD
 Precision Audiotronics

★総合
 AES Daily  -- Pro Sound News が会場で毎日配っていた AES Daily のオンライン版。
           新製品情報など。

(編集注:本誌では原則として他サイトへのリンクは行なわない方針です。しかし読者にとって有益な場合は、筆者の判断でリンクを設けます。上のリンク集は日常的にも情報収集に役立つと思われます。ご活用下さい)


 うわぁ、結構切り捨てたにもかかわらず、なんだか結構な量になっちゃいました。ここまで読んでくれたかた、お疲れさま&ありがとうございます。  

 

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