Handmade Project タイトル

★☆第2回【SOUND BOX オシレータ】の製作☆★

「デジタルは嫌いだ!」と言いつつ、結局はデジタル機材であるコンピュータを使って文章を書いている。何故なら便利だからだ。そう、たしかにデジタル機材は「便利」だ。「経済的」であり「効率的」でもある。しかし、だから「何でもデジタル化すればいい」ものでもない。
 たとえば子供向けの音楽や「音」。数年前、童謡のCDを買った。3枚組でスタンダードな童謡がほとんど入っていて、子供に聴かせたかったから。私自身、手巻き式の蓄音機でSP盤の童謡を聴いて育った。それが「音楽体験」の最初で、SP盤でいろんな歌や音楽を憶えていたから小学校のオルガンを弾きたくなって、ピアノを習って……結局、今に至っている。子供に音楽を聴かせることは、子供の可能性をひとつ増やすことだと思う。
 で、CDを買った。ところが再生してみたら「ナンダ、これはッ!」。かなり高価なCDだったにもかかわらず、伴奏が全部安物シンセ。あるいはプロデューサーがギャラをケチったために伴奏のプレイヤー(?)が手抜きしたのかもしれないが、安手のサンプリング音と、聴いただけで波形がわかる安直なプリセット音色しか使われていない。まさに「子供だまし」。デジタル機材を安直に使った好例だろう。童謡のCDは、親からすれば情緒教育の一部である。ぜひともアコースティック楽器の伴奏であってほしい。いいじゃない、NHK「のど自慢」程度のプレイヤーを集めれば済むのだから。それとも伴奏は「添え物」か? 幸い、私の子供はそのCDをほとんど聴きたがらず、クィーンと前川清の大ファンになっている。「だって、かっこ良くて、歌うまいから」だそうだ。
 そういう耳でいろんな音を聴いてみると、最悪なのは(ゲームボーイの音だが、一応除外してみると)国産テレビアニメのサウンド。妙に刺激的でヤカマしい。可能な人はWOWOWで朝と夕方オンエアしている、虫プロとディズニーの古いアニメの音と聴き比べてみよう。本物の楽器音とアナログの効果音は、アニメ全体のイメージを大きく左右していることがわかるはず。(虫プロ、ディズニーとも、アニメの内容に問題が無いわけではない。ここでは「音」についてだけの話)
 つまり、デジタルの音で間に合うところと、やはり本物の楽器やしっかりしたアナログ音源を使わなければならないところがある。その見極めが「経済性・効率性」によって、我が国では見境いがつかなくなっているのではないか。妥協の上に妥協を重ねた結果、それが常識になってしまった。「それらしい」音が出ていればいい……で安直にデジタル音源を使う。この「見境いがつかない」ところ、私が「デジタルは嫌いだ!」と言っている理由を煎じ詰めると、どうやらそこらへんに根っこがありそうだ。
 考えの浅いデジタル屋さんは、何でもかんでもデジタルでできると思っている。考えの深い人は、デジタルの領分とアナログの領分を見極め、きちんと使い分けている。すべての流れがデジタルに向かっている現在、「これ、アナログでやった方がよくない?」と、一瞬考え、試してみることも必要だと思う。まあ、その前提条件として、アナログ技術が必要になるのは当然だが、大体アナログができないクリエイターの方がおかしい(いるね、そういう人。マルチメディア屋さんに多い)。ある「プロ」は、マイクのキャノンにピンが3本あることを知らなかった! それでも彼は雑誌のCD-ROMに入れるビデオ(もちろん音付き)ソフトを作っていた。
 言い始めるとキリがないので、このへんで前説は終了。今回は、使い方自由、アイディア次第でライヴにもレコーディング、効果音にも使えるアナログ音源を作ろう。それにしても珍品堂と懐古軒は、どこに行ったのだろう? 電脳仮想空間で迷子になっているのだろうか?

■SOUND BOXシリーズ第1弾 [OSC]■
SOUND BOX [OSC]写真
 ミニムーグの太いサウンドはアナログ特有のもの。あまり科学的ではない言い方だが(この記事自体、科学的ではない?)、デジタルの音は「作られたもの」であり、アナログの音は「できちゃったもの」だからだろう。今回は、そんな「できちゃった」音を出すマシンを、とりあえず2回シリーズで作る。1回目はオシレータ、つまり発振器だ。シンセならVCOになるのだろうが、Voltage Controlはしていないので、ツマミを回して音程を変える。言いようによっては、ただブーブー、ピーピー鳴るだけのマシンだけれど、いろいろと仕掛けがあって、サウンド・バリエーションはいろいろ。ヘンな音も充分に出せる。じゃ説明に……
 あっと、その前に「OSC」とはOscillator=発振器の略。発音としては「オッシレーター」が近いと思われるが、誰も「オッシロスコープ」とは言わないので、ここでは「オシレータ」と表記する。どう書いたって原語の発音からはほど遠いからね。
 気になる人のために最初に予告しておくと、来月のシリーズ2回目は「ノイズ発生器」+α。マシンはもう完成している。どっちを先に発表しようかと悩んだ。で、アミダくじで決めたところ、OSCが先と決まった。科学的な決定方法だ。それから言い訳……今回、デジカメのご機嫌がひどく悪くて、全体に写真が汚い。ご了承を。それでもgifではなくてjpgにしているのは、こっちの方がファイルサイズが小さいため。もう、よくわからん!
 発振器を簡単に作る、となると、多くの人はまず555を考えるだろう。石に少し詳しい人なら、さらに566とか8038を思い浮かべる。私も最初は555のつもりだった。ところがこの石、得られる波形は矩形波とノコギリ波だけ。まあそれでも充分面白いことはたしかだが、デューティ・サイクル(後述)を変えると周波数まで変わる特徴がある。また、得られた2種類の波形を処理するには、別のオペアンプなりトランジスタが必要。だから555は、うんと簡単な発振器には向いていても、サウンド・バリエーションを広げるには最適とはいえない。566も事情は同じ。8038にいたっては、おまけに高価だからバッテン。
 そこで、発振器用の石はあきらめて、オペアンプだけで構成することにした。回路は、いわゆるファンクション・ジェネレータと呼ばれるもの。アナログシンセやエフェクタのLFOで有名な回路だ。オペアンプを2個(2ユニット)使って、三角波と矩形波が同時に得られる。ただ、今回の回路構成では三角波出力だけを使い、三角波から矩形波を作り出している。2種類の波形は単独でも、ミックスしても使える。ミックスする場合、バランスを変えると面白い。もっと面白くするには矩形波のデューティ・サイクルを変えると最高。倍音が大きく変化してサウンドはどんどん変わる。
 このマシンのブロック図とデューティ・サイクルの説明図を以下に示す。この図とパネル写真で、おおよその機能はわかってもらえるだろう。

OSCブロック図
 まず「発振回路」で三角波(TRI)を作り出す。周波数は「FREQ」のVRで変わる。今回のマシンは「楽器」として発想したので、発振周波数を約80Hz〜4.5kHzに設定した。上が4.5kでは低すぎるような気がするかもしれないが、倍音がゴチャゴチャ含まれた波形だからこれで丁度いい感じになる。もちろん回路の定数を変えれば周波数も変えられる。さらに、使った石が低速なため、三角波といっても高い周波数では相当に歪んでしまう。これも故意にやったこと。楽器にとって「歪み」も味なのだ。
 測定器として作るなら、そんなことは絶対に許されない。発振周波数は少なくとも20Hz〜20kHzを確保しなければならないし、三角波も歪んではいけない。このマシンはあくまでも楽器であり、「できちゃった」音を作る意図なので、その辺よろしく。
 矩形波(RECT)は三角波から作り出す。発振回路に用いたファンクション・ジェネレータは矩形波も同時に出力できるけれど、デューティを可変にするためには三角波を「コンパレータ」という回路に通し、矩形波に化けさせるのが簡単。まあ、やる気になればファンクション・ジェネレータ自体でもデューティは変えられる。でもそうすると三角波までデューティが変わってノコギリ波になってしまう。それもまた楽しいのだが、今回は三角波は三角波として残し、それにデューティ可変の矩形波をミックスする構想であったため、こういう構成になった。そーゆーこと考えてる時って、結構楽しいのだ。
 デューティ・サイクルの説明も右側に描いておいた。真ん中の「50%」といのが、いわゆる矩形波。波形の上の長さと下の長さが同じ状態。デューティを変えるというのは、上下の長さのバランスを変えることだ。10%と90%を例示したが、本機ではもちろん連続可変する。コンパレータにある「DUTY」のVRで変わる。とりあえず10〜90%程度の変化が得られるようになっているけれど、石によってバラつくことは確実。これも測定器ではないのでOKとしてしまう。ただ、バラつき過ぎて0%とか100%になると音にならない。万が一の対処法は「回路」の項で書こう。
 次がミキサ。三角波(TRI)と矩形波(RECT)のミックス・バランスを決める。この微妙なバランスでいろんな音色を作る。最後にマスターVR(VOL)がきて、バッファを通って、信号は出てくる。
 特に難しいことはやっていない。基本回路をそのままつなげただけ、ともいえる。図にはないけれど、電源は006Pの電池仕様。それに前回のD-FUZ同様、外部電源も使えるようにしてある。外部電源についての詳細は前号を参照。
 最初の構想では、ミキサの後に簡単なローパス/ハイパス・フィルタを付けるつもりだった。アナログシンセでいえばVCO+VFOみたいなマシンにするつもりだった。でも、試作しているうちに、フィルタが無くても充分に「使える」マシンになるし、逆にフィルタを付けると操作は煩雑になって、マシンの「狙い」みたいなものがボヤけるような気がしてきた。もしもフィルタを付けるなら、この音を料理するには「簡単な」フィルタでは役不足でもある。で、結局シンプルな形にまとめてしまった。今回、試作基板を4枚も作ったのだ。不精な私としては異例のことである。

■回路とパーツの説明■

★324というオペアンプ

 ひとつアタマにくるのは、トラ技などのアナログ回路解説記事でオペアンプが登場すると、ほとんどが「最新型・高性能」の品種であること。たしかに高速だったり高精度だったり、あるいは動作電圧レンジが広かったりするのだろうが、たとえば「たかが音声増幅」のところに、そんな高級品を使う必要は毛頭無い。普通の用途なら4558系統、頑張っても5532系の従来品種で充分なのだ。最新品種も安ければいいよ。でも例外なく高い。とても1個100円では買えないだろう。あの手の記事のライターは、よほどの新しもの好きか、石屋の回し者じゃないかと勘ぐってしまう。
 そこで、古い石(逆に言えば、評価が定まっている石)でも、使いようによっては充分実用になることを証明すべく(ウソです。本当の理由は値段)今回と次回は、うんと古い品種「324」を採用することにした。1パッケージに4個のユニットが入った「クワッド」で、安い店では1個40円! つまりオペアンプ1個が10円という、多分一番安い石だと思う。まあたしかにマジなミキサなどを作るには二の足を踏む品種だが、今回は楽器。これでいいのだ。324はナショセミの「LM324」が有名。他の各社も作っていて、JRCのNJM324も入手しやすい。いずれにしても、メーカー不問、どの石屋にもある。また、同じ石で「2902」という型番もある。これは主に自動車用に作られただけで中身は324だから、まったく同じに使える。
 ここで「オペアンプとは何か?」を始めると製作ができなくなるので、知りたい人は参考書を読もう。参考書としてはCQ出版の「OPアンプ回路の設計」が定本。この本が理解できなければ、それは読者の科学知識が不足しているのではなく、読解力・国語力の不足だ、と言い切れるほど、親切に書かれた良い本だ。
 オペアンプの話になったついでに、324の特性について少し書いておこう。値段が安いのも大きな魅力だが、この石は一般のオペアンプとは少し違った特徴をもっている。いわゆる「単電源動作可」というやつ。一般のオペアンプがプラス/マイナスの2種類の電圧での動作を前提に作られている中で、324はプラス電圧だけ(マイナスでもいいけど)で動かすことを前提にしている。具体的には、たとえば電源電圧が+9Vだとすると、0〜+8V程度までの範囲で出力が得られる、ということ。上は1V程度下がるにしても、下は0Vまでいけるところがミソなのだ。一般のオペアンプを単一電源で動かすと(これももちろんできる)下は0Vまではいかず、出力範囲は+1〜+8Vくらいになってしまう。上下とも1Vくらい損する。それでも通常の小型エフェクタなどでは支障ないため、メーカーも私も、単一電源回路に一般型のオペアンプを平気で使うけれど。
 ただし324の「音」は、それほど褒められたものではない。だからマジな用途には二の足を踏む。今回は、その特性の悪さを逆手にとって、味のある「楽器」にしようというわけ。んじゃ、回路、いってみよう。

OSC回路図 gif形式回路図ダウンロード
印刷用の回路図。少し大きめに描いてある。


CANDY6形式回路図ダウンロード
CANDY6形式の回路図。LHAで圧縮。


★発振回路

 回路図は画面をスクロールしなくても見える大きさで表示した(つもり)。だから少し見づらい。ダウンロードする人は、図面位置からハギ取るよりも右のダウンロード用ホットイメージを右クリックして落とす方がベター。緑色のボタンは、画面表示用ファイルよりも少し大きく描いたgifファイル。印刷しても文字が判読できる程度にはしてある。ピンクは私が元図を描いたcandy6の「C6ファイル」をLHAで圧縮したもの。Windows版candy6を持っている人は、こちらの方が圧倒的に解像度がよろしい。
 図面では回路定数の表記にアチラ式を採用した。3.3kは「3k3」になる。回路図で青の数字は、基板パーツレイアウト図の配線引き出し穴の番号に対応している。点線で囲った「EXT.POWER」の部分は外部電源を使う場合に必要になる部分。要らない人は取ってしまってもいい。★印のダイオードは、不幸にして78L09が入手できず、78L08(これはゴロゴロある)を使う場合に、普通のダイオードではなくLEDにする。基板には、そのための穴もあけてある。ま、このへんのことは前回説明済みなので、詳しくはバックナンバー参照。
 A1〜A4のオペアンプは上で説明した324。クワッドだから1個で済む。A1,A2が発振回路。LFOのほとんどがこの形式。だから低い周波数専用の回路かというと、そういうものでもない。「極端に低い周波数でも発振する」回路だからLFOに使われているだけで、オペアンプさえまともなら、どんな周波数でも発振する。A1の非反転入力にフィードバックが戻っているのは間違いではない。A1の上の10kと15kの比率で三角波の振幅(の大きさ)が決まり、VRの2番端子につながる47kとA2のフィードバックに入っている0.001で周波数が決まる。計算式もあるけれど省略。周波数を変えたい人は、47kと0.001をいじってみよう。片方でも大きくすれば周波数は下がる。
 発振周波数の変化幅はVRの100kと、VRからバイアスに落ちている1kの比率で決まる。図の定数では1:100で、約100倍変化するはずなのだが、実際には50倍しか動かない。何故でしょう? ま、これクイズね。 (かなり難問だけど)

★矩形波変換と、そのトラブルシュート

 三角波はA2の出力に出てくる。単一電源回路なので、三角波の振幅はバイアス(約4V)を中心に振れている。それを1μで切ってグランド・レベル中心の振幅に直し、ミックス用のVRに送っている。1μと直列に入っている150kはVRの100kと直列になるから単なるアッテネータ。適度なレベルにしておかないと、矩形波とミックスされたときに歪んでしまう。いくら楽器でもナチュラル・ファズは困る。で、アッテネートして40%のレベルに抑えている。
 ところで、この回路は、完全直流回路としても設計できた。つまり信号系にコンデンサが1個も入らない回路(無論、最後の出力端子の直前には1個だけコンデンサは要るが)。にもかかわらず、ここで1μで切っているのは……そうです、この回路から三角波だけを取り出したい人のために、基板穴の7から、ソク出力できるようにするためだ。これは基板穴10番にもいえて、ここからは矩形波が取り出せる。使いやすさや改造のしやすさを、これでもいろいろと考えているんだから。
 A3はコンパレータと呼ばれる回路。出力側から反転/非反転入力のどちらにもフィードバックがかかっていないところに注目。オペアンプの2個の入力、反転入力と非反転入力の電圧を比べて、この回路なら、反転入力の電圧が非反転入力の電圧よりも高くなると、A3の出力は0Vに落ち、逆に反転入力の方が低くなるとA3の出力は電源電圧いっぱいまで振れる(実際は電源電圧-1Vなので、この回路では約7.5V)。いわば「電圧比較器」であり、出力電圧が2種類しかないデジタル的な動きをする。だから、A3の出力波形は矩形波になる。
 反転入力には、時々刻々と電圧が変化する三角波が加わっている。理論的には、三角波の振幅の中心電圧はバイアス電圧になる(実際には少しズレている)。もしも非反転入力に加わっている電圧がバイアス電圧と同じだとすると、比較される電圧は三角波の振幅の中心電圧になるから、このとき、A3の出力にはデューティ・サイクルが50%の矩形波が現われる……と、計算通りにはいかないけれど、電圧の絶対値が変わるだけで動作は理論と一致する。次に、非反転入力の電圧を変えてやったらどうだろう。三角波の中心ではないところで比較が行なわれ、矩形波のデューティ・サイクルは変わる。「DUTY」のVRは非反転入力の電圧を変えるためのものだ。
 と説明したところでトラブル・シュートについて書いておこう。このマシンでトラブるとしたら、「DUTY」のVRを回すと、どちらかの端で矩形波の音が出なくなる現象だろう。これはデューティ・サイクルが0%か100%になってしまったためで、VRの両側に入っている43kと62kを変えてやれば直る。もしもVRがフルテンの方向で音が出ないとしたら、43kを少し大きくしてやる。といって、44kや45kの抵抗はないから、最初は47kに付け替えてみる。それでもダメなら51kだ。反対にVRを絞ると音が出なくなるなら、62kを少し大きくする。68k、72kなどに付け替える。こうして、おおむねVRの中央でデューティ・サイクル50%になるようにして、両端でも音が消えなければ完璧。50%の音色は、初めて矩形波の音を聴く人でもわかる。注意すべきは、VRの片側の抵抗を変えると、もう片側にも影響すること。だって当然だね。電源電圧を2本の抵抗と100kのVRで分圧しているのだから。図面の定数、43kと62kは、計算ではなく、実際に基板を2枚作り、324をいくつか差し替えてみて決めた値。かなり安全だとは思う。

★三角波と矩形波のエネルギー&出力まで

 A3の出力、矩形波の振幅は電源電圧メいっぱいに振れているのに近いから、かなり大きい。で、アッテネータも、100kのVRを使う前提で470kにした。これでレベルは約1/6になる。純粋に振幅の大きさだけで決めるなら、三角波の側にくらべてこのアッテネートはヤリすぎになる。矩形波はもっと大きくても構わないはず。ここで思い出してほしいのは(そもそも知らない人は憶えてほしいのは)三角波と矩形波のもつ、それぞれのエネルギーの差だ。振幅が同じ大きさだと、矩形波の方がとても大きな音になる。矩形波のエネルギーはとても大きい。三角波と矩形波を同じ音量で聴きたければ、三角波の振幅を、矩形波の約1.7倍にしなければならない。そこで、矩形波のアッテネートを強くしたわけ。ただし!このマシンでは三角波と矩形波を加える波形合成も行なう。となると、あまり振幅に差があっては困る。仕方がないので、まあ妥当と思えるアッテネートを行なっている。オシロがある人は見てもらいたいが、振幅は1:1.7にはなっていない。
 A4は単なるミキサ回路。TRIとRECTを混ぜているだけだ。図面スペースの関係で、A4の下にバイアス電圧を作る回路を描いた。電源電圧を2本の3.3kで半分にしている。ここにある33μは、バイアスに乗ってくる交流成分(いわばバイアスに漏れた信号の成分)をアースに逃がすためのもの。電気的に言うなら、バイアス・ラインのインピーダンスを下げる目的で入っている。発振器の回路では、本当なら、こんないい加減なバイアスの作り方ではいけない。でもまあ、これは楽器でもあるし、電源の電池が他の回路と共用されることもない。外部電源を使うにしても、専用の三端子レギュレータをもっている。そういった意味から、簡単なバイアスで済ませている。だから間違ってもこの回路をマイク・アンプなどと同じ電源系統で使ってはいけない。マイク・アンプから矩形波の音が出てきても不思議はない。
 A4の出力は1μで切られて、再びグランド・レベル中心の振幅になり、基板の13番の穴から出てくる。いわゆるプリ・フェーダーで信号を得たい人は、ここから取り出せる。VOLのVRの後は、FETでバッファって出力端子に行く。バッファを入れたのは、当然ながら出力のインピーダンスを下げるためだ。
 電源系統は前回とまったく同じ。電池でも外部電源でも使える。ダイオードによる自動切り替え式だ。電源のオン/オフも、ちょっと手を抜いてエフェクタと同じ方式。出力ジャックにプラグが差さるとオン。これが使いにくい人(たくさんいるだろうなぁ)は小さなトグルSWを電源スイッチにすればいい。入れる場所はマイナス側が利口。電池スナップの黒い線と外部電源のDCジャックのマイナス側端子をつないで、それをアースに落とせばオン、切ればオフ。2pのSWで済む。

★その他のパーツについて

 これで回路の説明はおしまい。あとは使用パーツについて少し書いておこう。上述したように324はメーカー不問。2902でも代用可だ。石が安い分、ICソケットは必ず使おう。ICの不良品は皆無に近いとはいえ、絶無ではないし、バラつきもある。作ってみて不調なら、他メーカーの石と差し替えてみるのも一手。FETは2SK118を使ったが、2SK30Aでも同じ(ランク不問)。VRは全部100kB。Aカーブであるべきところも、前回書いた誤魔化し定数でAカーブっぽくしている。出力ジャックは、入手できれば「ステレオSWなし」が最適。後で出てくる私の試作機の写真は、それを使っている。電気街でたまに手に入る。もしも見あたらなければ「ステレオSW付き」でもいい。これまた後に出てくる結線図は「SW付き」ジャックで描いている。
 ケースは何でもいいのだけれど、なるべく小さくしたかったのと値段の面からタカチのYM-130にした。試作機のように単独使用を前提に作るなら、このケースが最適だと思う。ただYM-130だと、前回試した底板に填め込む電池ボックスが付けられない。厚すぎるのだ。でもこのマシンの消費電流は3〜4mAと小食だし、ケースの留めビスも4本なので、電池交換の手間は、あまり考えなくてもいいだろう。

■製作■

★基板の製作

 このマシンは配線が多いだけで、作るのは簡単。図面と睨めっこしながら基板の穴さえ間違えなければ、まず一発完動だろう。もっとも「DUTY」のバランスが図面の定数でうまくいかないと、ちょっと面倒だが、その時はその時、気楽に作ってみよう。オシロを持っている人は、基板が完成したところで、すべてのVRを付けて矩形波出力を観察すれば「もう一回組み直し」は避けられる。
 最初は基板パターン。今回は14ピンのICを使うので、ぴったりのサイズで作らなければならない。図面中のインチ目盛りも参考になるだろう。1インチは25.4ミリだから、基板サイズは約48.3ミリ×53.3ミリになる。

プリントパターン gif形式プリントパターン ダウンロード
gif形式の印刷用プリントパターン。少し大きめに描いてある。


CANDY6形式パターン ダウンロード
CANDY6形式のプリントパターン。LHAで圧縮。


 ダウンロードは回路図と同じ。この画面からしてもいいけれど、できれば右側のホットイメージを右クリックして落とした方がベター。少し大きめのgifファイルが入っているから、寸法合わせや印刷に便利だ。LHAで圧縮したCANDY6形式の元図も用意した。
 各種ソフトや拡大・縮小コピーなどを駆使して、なるべく指定寸法に近いハードコピーを作ろう。その後、生基板に穴位置をポンチで打ち、遮光ペンで手描きするのが一番安全。難しいパターンではないので、手描きでも簡単にできるはず。間違ってもパターンをOHPフィルムにプリントし、いきなり感光基板に焼かない方がいい。どうしてもレタッチが必要になるし、その手間を考えたら、やはり手描きの方が早い。
 基板穴は0.9〜1ミリ。左上と右下の独立した丸はビス穴で3.2ミリ。基板の材質は紙エポかベークで充分。324にガラエポは似合わない。

 パーツレイアウトは以下の通り。下にパターンが薄く見えるようなグラフィック技術は、まだ体得していない(少しは進歩したけど、まだ満足していない)。CANDY6のファイルを使える人は、非表示になっているレイヤを「表示」にすると、とりあえず画面上ではパターンも見える。

基板パーツレイアウト 基板写真 gif形式基板パーツレイアウト。印刷用
 gif形式のパーツレイアウト。
 印刷用。



CANDY6形式パーツレイアウト
 CANDY6形式パーツレイアウト。
 LHAで圧縮。
 前回よりはいくらか進化したと、自分では思っている。一応見えるし写真も付いた。(それよか、TABLEタグの「謎」が解けそうで嬉しい!)
 KはFET、Lは78L09。FETはどっち向きに付けてもいいけれど、78L09の三端子レギュレータは必ずフラットな面を図面と同じ方向にする。324にはソケットを使い、ICの型番の文字を図面と同じ方向にする。電解コンデンサの極性にも注意。ダイオードは本体に帯のある方が、図面では三角の頂点に付いた棒の方向になる。「J」という線はジャンパ線。抵抗の余ったリード線などで、ホッチキスの玉のような形を作り、基板穴どうしをハンダ付けする。要するに抵抗値「0Ω」の抵抗。それから、写真では4.7kに見える抵抗は、実際は「赤」じゃなくて「橙」で、図面の通りの47k。どうもデジカメのホワイト・バランスがヘンだ。
 基板面積に対して配線の引き出し穴が多いので、パーツをハンダ付けする前に、穴の番号を細い油性ペンで書き込んでおくと楽かもしれない。
 ここで初心者用、カラーコードの読み方など……。

   抵抗カラーコードの読み方
     1k=茶黒赤、3.3k=橙橙赤、10k=茶黒橙、15k=茶緑橙、22k=赤赤橙、43k=黄橙橙、
     47k=黄紫橙、62k=青赤橙、100k=茶黒黄、150k=茶緑黄、470k=黄紫黄
      (金色の線は精度5%を表わす。どうでもいいので無視する)
   コンデンサの表記
     0.001=102、0.01=103、0.1=104 と表記されていることもあります。

★ケース加工と配線など パネル正面写真

 さすがにVRが5個もあると、パネル・デザインには少々頭を使わなければならない。基板の位置、各VRの穴位置は、実際にパーツや基板をケースに入れてみて決めよう。注意点として、基板はなるべく端(写真でいえば下端)に寄せること。ただし寄せすぎは禁物。ケースから1,5ミリは離す。VRは基板やジャックとぶつからないように配置する。これこそ実際にパーツを配置してみなければわからない。ジャックの奥行きは想像以上に長い。またVRどうしの(軸芯から軸芯までの)間隔は25ミリ以上はとりたい……と、今回のパネル・デザインには結構制約が多い。
 あとふたつ、考えなければならない要素がある。タカチのYMシリーズは底板側に10ミリのエッジがあり、パネルをエッジにビス留めする構造。この10ミリのエッジがくせもので、しっかり考慮していないと基板やパーツがぶつかり、フタの閉まらないマシンになる。だから側面の写真でもわかるように、出力ジャック、DCジャックとも、ケースの上下センターには付いていない。私は穴の中央を、ケース下端から18ミリのところにした。最後のひとつは「電池を入れるスペース」だ。これも考えておかなければならない。この写真と、後で出す内部結線の写真を参考に、各自で機能的かつ美しい配置を決めてもらいたい。
 タカチのケースにはパネル表面にビニールが貼ってある。表面保護用だが、穴あけ位置はビニールの上に極細のマーカーで線を引いて決める。また、このビニールは穴あけ加工が全部済むまではがさない。これが美しく仕上げるコツ。
 パネル文字は必ず入れよう。私は買い溜めたインレタがあるので今回は1書体を買っただけだが、現在インレタのシートは1枚(1書体)400円。試作機のように4書体も使うとCDが買える値段になる。だから、自分だけで使うならマーカーで書いてもいいし、シールのようなものを貼ってもいい。でも必ず文字は入れること。人間の記憶力ほどアテにならないものはない。3ヶ月後の自分は、記憶の面では全くの別人と思っておこう。忘れちゃうんだ、ツマミの意味を。(これって老化現象で、私だけの話かな?)
 雑誌で掲載していたときには「パネル加工図」なるものも発表していた。これをやめたのは意地悪ではなく、読者諸氏の創造性を尊重したかったからだ。図を出してしまうと、ついその通りに作ってしまう。見方にもよるけれど、これって一種の「押しつけ」ではないか? ケースのデザインは、注意してやれば、初心者にもできることだし、ベテランはそんな図など必要ないだろう。だからヤメた。でもリクエストが多ければ復活するかもしれない。

ケース内結線図基板 ケース内写真 gif形式結線図。印刷用
gif形式の結線図。


CANDY6形式結線図
CANDY6形式結線図。
LHAで圧縮。
 結線図もできればダウンロードして、少し大きめにプリントアウトしておくことをお薦めする。配線の本数は19本で決して多くはないけれど、基板が小さく、VRの間隔がつまっているため、プリントアウトにチェックを入れながら配線した方がミスは少ないはず。写真では、とりあえずゴチャゴチャに見えるが、手順を考えて配線すれば特に混乱するところはない。
 今回、シールド線は使っていない。主に三つ編みでやっている。三つ編み・ヨリ合わせの指示は守った方が賢明だ。なにしろ場所によっては0V−8Vの振幅の矩形波が飛び回っているのだから。その意味で、三つ編み・ヨリ合わせの指定のない線を勝手にからませてはいけない。その昔、アンプの入力と出力の線を律儀にもきちんとヨリ合わせて、アンプを発振器にした友人がいた。内部配線は美しく仕上がっていたが、電子機器はオブジェではない。
 配線はケースに這わせるのが基本だが、そうするとどうしても引き回しが長くなる。長くなると、他の線からの信号飛び移り(クロストーク)が生じる可能性が高くなる。そこで、基本は基本として、飛び移られては困る線は、なるべく他の線から離す。空中配線もある程度やむを得ない。写真を参考にして、各自で工夫していただきたい。
 前回も書いたが、三つ編みにするには少なくとも3色の配線材が必要になる。本機のように三つ編み線が何本も重なるような場合には6色から9色あると快適だ。電気街で10色セットが1000円以下で買えるから、この際揃えてしまうのもいいかもしれない。
 基板はは3ミリのスペーサでケースから浮かせて固定する。固定してからハンダ付けするのは、基板が裏返ってでもいない限り不可能。で、固定する前に基板を所定の位置に置き、各穴から配線先までの長さ分の配線材を基板にハンダ付けする。19個の穴全部について、この処理はしておく。配線先までの長さは、三つ編み・ヨリ合わせにすると、ヨリの堅さにもよるが約1.5倍になる、と思っておこう。配線材の長さは余裕をみて決めよう。切るのはいつでもできる。
 パワースイッチを別に付けるとか、各波形を単独で取り出す方法とかは既に書いてしまったので、ここでは触れない。ただ、ひとつ言えることは、まずこの記事通りに作ってみることをお薦めしたい、ということ。ちゃんと動いてこそ改造はできる。最初から規模壮大な計画で始めると、かんじんの基本機能が動かない、なんてよくある話だからね。

■チェックと音出し■

 配線が終わった全体を調べ直して図面と合っていることを確認しよう。電池をつなぎ、出力ジャックに何でもいいからプラグを差して1分ほど様子を見る。ヘンな臭いや煙、火花は出ていないかな? 電池にも触れてみて、発熱していないのを確かめる。ノーマルな消費電流は4mA程度だから、電池は熱くなりっこない。
 OUTからアンプにつなぐ。このとき、ツマミはFREQとDUTYはセンター、あとの3個は絞りきっておく。アンプのボリュームを少し上げて、VOLをセンターにし、TRIを上げてみよう。三角波の音が聴こえるだろう。FREQを回して周波数が変化すれば正常。
 次にTRIを絞ってRECTを上げてみる。違った音色が出てくる。これが矩形波の音だ。DUTYを回すとビヨーンという感じで音色が変わる。センターに対して左右のどちらに回しても同じように変化すれば最高。回しきったあたりで音が出なくなるようなら「トラブルシュート」のところを読み直してほしい。  最後にTRIとRECTを適当に混ぜてみよう。混ぜながらDUTYを変えると、倍音がギョンギョンと変化する。ミックス・バランスによっても倍音の出方は変わるから、いろいろ試して、ヘンな音をみつけよう。ただの発振器だけれど、結構遊べて、用途もいろいろ考えられると思う。これを音源に、様々なエフェクタを駆使すれば、それだけで「音楽」になるかもしれない。
 とにかく「アナログ音源」。ミニムーグに迫れたかどうかは読者の判断に任せたいが、私の評価は「簡単なマシンのわりには純粋アナログの音」であり「アナログシンセの野蛮なイメージの再現」だ。とりあえず1台作ってみてほしい。(このフレーズが書けたときは、かなり自信がある。以後憶えておいても損はないよ)
 次回はSOUND BOXトシリーズの第2弾(第3弾以降は、まだ考えていないが)「ノイズ発生器+α」に決定している。同じ324を使い、ケースも同じYM-130。これもチープシックなアナログ・サウンドだ。また見てね。


■主要パーツリスト■

★基板上
  1/4W型カーボン抵抗
    1k*2, 3.3k*3, 10k*2, 15k*1, 22k*1, 43k*1,
    47k*4, 62k*1, 100k*4, 150k*1, 470k*1
  コンデンサ
    セラミック 0.01*1
    マイラ 0.001*1,0.1*1
    電解(耐圧16V以上):1μ*6, 10μ*1, 33μ*2
       (耐圧25V以上):10μ*1
  半導体関連
    IC:324(メーカー不問) *1
    ICソケット:14ピン用 *1
    FET:2SK118(or 2SK30A) *1
    DIODE:1S1588 etc. *2
    三端子レギュレータ:78L09(メーカー不問) *1
★基板外
  ケース タカチYM-130*1
  VR 100kB*5
  ジャック ステレオSW無し(SW付でも可)*1
  DCプラグ&ジャック*1組
  OO6Pスナップ*1
  ツマミ 15φ程度*5
  3ミリビス用スペーサ 3ミリ*2,ビス・ナット*2組
    以上の他、配線材が必要です。


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