新作・旧作 発掘報告班のタイトル
 
前回、前口上をレトロ調で書いたら、今回本物の「オッペケペー」が登場。邦楽に興味のない方も「100年前の音」を充分に楽しめます。SILVER APPLESは「絶対に売れないけど必ず歴史に残る」……と信じるのは私だけか? 必聴!(編集)

 
凡例
●アーティスト名/タイトル
      [リリース元 CD/LP番号] (録音年または発表年)

★今月のお勧めディスク

●甦るオッペケペー 1900年パリ万博の川上一座
                   [東芝EMI TOCG-5432] (1900)
甦るオッペケペー 外箱      箱の中身
70ページの詳細な解説書付き。その代わり、ケースのスリーブ類は無い
 連載「History of Recording」を面白がっていただけるような人なら、当然持っているでありましょう。それに、ラ技はおろか、朝日新聞の夕刊1面にまで載ってしまったので、いまさら紹介するのもちょっと気が引けるんですが、不幸にしてまだ知らないかたのために、しつこくここでご紹介する次第。これは1900年のパリ万博に出演中の川上音二郎一座の座員による演目の数々を収めた、世界初の日本人の商業用録音の復刻です。残念ながら川上音二郎・貞奴夫妻の声はありませんが、演目の中には「ベニスの商人」の翻案版(才六 人肉質入裁判 白州之場)なんぞという珍品もあります。座員の中では富士田千之助(長唄)と杵屋君三郎(三味線)の腕が光ります。とにかく、三味線伴奏の唄や語りという音量レベルの低いものばかりなのに、音質の良さはなかなかのもの。しかも、ワックス原盤ではなくプレスされたシェラック盤からの収録でこれなのだから、見事なものです。

●Scary Sound Effects - Nightmarish Noise For Hallowween!
                          [Rhino R2 71776] (1994)

Scary Sound Effects  アルバム・タイトルだけ見ると単なるホラー系効果音集。でもそんなものなら世の中にゴマンとあります。私だって、曲リスト中に "The Theremin Orchestra" という文字を見つけなかったら、きっと買っていないでしょう。ここで使われているテルミンは、そんじょそこらのもんじゃなくて、1929年のRCA製テルミンのオリジナル。しかも、ヒッチコックの「めまい」をはじめ、「地球が静止する日」など50年代B級SFの名作のサントラに使われていた、まさにそのものなんです。持ち主は、これらのサントラで演奏を担当した故サミュエル・ホフマンで、このCDでは息子のゲイリー・ホフマンが演奏しています。
 CD全体は、セリフなしのラジオ・ドラマといった風情で、効果音として「使える」工夫はしてありません。どうもこれ自体を鑑賞するのが目的みたいです。ま、ライノですから。なお、普通のアナログ・シンセ音も入っているので、テルミン初心者は勘違いしないように。また、あの有名なクララ・ロックモア女史のような名人芸を期待してもいけません。あくまでも「効果音」としての奥ゆかしいテルミンです。あまりテルミンが目立つ構成にはなっていませんから、コアなテルミン・マニアにだけお勧め。次回はこのテルミンだけで1枚作ってほしいなぁ。

●Silver Apples / Siver Apples
              [MCA MCAD-11680] (1968,1969)
Silver Apples MCA盤 裏面
MCA盤裏面。一昔前の一番安い低周波発振器
Silver Apples TRC盤
  独TRC盤
Silver Apples MCA盤
  MCAの正規再発盤

 伝説のSilver Applesの1枚目と2枚目をカップリングした 2on1 CD。Silver ApplesはパーカッションのDanny TaylorとエレクトロニクスのSimeonによる2人組ユニットで、実験的な要素とポップ/サイケデリックな要素のバランスが絶妙です。ま、人によっては単調でつまらんでしょうが、ハマると癖になります。
 以前、独TRCから同じフォーマットで出ましたが(写真左)おそらくLPおこし。モワーッとしていて細部のディテールが分かりません。一方最近出たMCAによる正規の再発盤(写真中央)のほうはさすがに音が良いし、TRC盤と違って機材セッティング図まで載っていて、これが実に面白い。早まって TRC盤を買ってしまった人も、これのために買い直す価値があるかも。使ってるのが本物の低周波発振器なので、9台の発振器の出力を電鍵(モールス信号を叩き出すアレです)でON/OFFしてリズムとメロディーとコードを出すという荒業を使っていたのでした。で、このセッティング図もスリーブの写真とは違っているんで、あれこれ想像する楽しみもあり。首謀者のSimeonは、最近も若い衆とシングル出したりして現役です。

 

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