新作・旧作 発掘報告班のタイトル
 
今回は、まさに小沢氏らしいセレクション。各種マイク聞き比べと、世界一珍妙かつ玄妙な電子楽器=オンド・マルトノ関係のCD紹介です。多数問い合わせいただいている「どこで手に入る?」にも、できるだけ触れてもらっています。(編集)

 
凡例
●アーティスト名/タイトル
      [リリース元 CD/LP番号] (録音年または発表年)

★今月のお勧めディスク

●DAS MIKROFON [TACET 17] (1991)
●DAS MIKROFON Vol.II [TACET 49] (1997)

DAS MIKROFON DAS MIKROFON VOL.II

   日本風に言うなら「ザ・マイクロフォン」と題されたドイツ制作の2枚。タイトルどおり、さまざまなマイクの音の違いを聞き比べてみましょう、という企画盤です。91年に出た第1集 "DAS MIKROFON" が好評だったのか、あるいは制作側の趣味なのかは分かりませんが、第2集が97年に制作されているので、2枚併せてご紹介。
 第1集は、マイクごとに曲が違うのでマイクの比較にはやや不向きでしたが、第2集は指向性ごとにグループ分けして、たとえばM49やRCA77DXなら無指向性・双指向性・単一指向性の3種類の聞き比べもできるようになっています。ですから、買うなら第2集でしょうね。第2集に収録されたマイクは、メーカー別にまとめると

・BK 4003
・Clara
・MBHO イェクリン・ディスク、MBC KA1000
・Microtech Gefell UMT70S、UM92.1S
・ノイマン CMV3、U47、M49、U67、KM83、KM84、TLM170
・ゼンハイザー MKH20、MKH30、MKH80、MD421
・E-V RE2000
・RCA 77DX、44、10001
・ショップス MK2、MK4、KFM6U、BLM3、CMXY4VI(試作機)
・Coles 4038
・ソニー C800G

の28種類。CMV3以外はステレオ収録です。Clara は初めて聞く名前ですが、U字形に曲げたアクリル板に無指向性マイク2個を取り付けたもので、ダミー・ヘッドの系統です。どれも1分くらいのジャズの録音で、違いの出るもの出ないもの、なかなか楽しめます。私には、77DXの指向性による音の違いが一番印象的でした。やっぱりリボン・マイクは双指向性で使わないとね。77DXを使ってみたけどナローで古くさい音しかしなかった、という人は、きっと単一指向性の音しか聞いていないんでしょう。もったいない。
 ただ、ご覧の通りのジャケもそうなんですが、TACETというレーベルは企画は面白くてもどうも詰めが甘いところがあって困ります。たとえば、ジャズ・コンボをワンポイント・ステレオで録るという、普通じゃないシチュエーションなので、せめてU87AかC414をリファレンスとして入れておいてくれないと、評価の基準軸が定まりません。いわば基準の0dBの電圧が明記されていない状態なので、あくまでも相対評価にしか使えないのです。まぁ、企画者の意図がそうなんでしょうが、そのへんが理解できずに早とちりする人がいっぱい出そうでイヤな感じです。他にも、録音現場の説明も写真もないので実際の音場サイズが分からないとか、マイク・セッティングの説明がないとか、相変わらずイマ3くらいなのですが、この種のマイク聴き比べ物は、DENONの3枚組オーディオ・チェックCDか雑誌「CDマガジン」のバックナンバーくらいしかないので貴重なことは確かです。
 TACETは、日本ではポリグラム系列のIMSが入れているので、クラシックの輸入盤を扱っている店ならだいたい取り寄せ可能。店員がTACETというレーベルを知らなくても「IMSが扱ってますから」と言えば大丈夫でしょう。もしIMSも知らない新米店員だったら、クラシックの輸入盤担当者に代わってもらいましょう。なおいずれもLPでも出ていますが、こういう聞き比べはCDのほうが圧倒的に便利です。TACETのサイトを見るとCD番号を変えるようですが、まだ IMS では旧番号で受け付けてくれます。
 

●Sextuor Jeanne Loriod / Ondes Martenot : Messiaen / Tisne / Tamba / Yoshida
                                     [REM 311306] (1997)
●Jeanne Loriod / Martenot Ondes works : Andre Jolivet / Jacques Charpentier
                                     [Marcal 970601] (1997)
●Estelle Lemire / Ondes [SNE 616-CD] (1997)
 
Sextuor Jeanne Loriod / Ondes Martenot Jeanne Loriod / Martenot Ondes works Estelle Lemire
Sextuor Jeanne Loriod / Ondes Martenot   Jeanne Loriod / Martenot Ondes works   Estelle Lemire / Ondes

 去年から今年にかけて、なんか久しぶりのオンド・マルトノ物の新譜がいくつか出たので、3枚まとめてご紹介。1枚目は有名なジャンヌ・ロリオ女史率いるオンド・マルトノ六重奏団。その昔、来日したんですよねぇ、オンド・マルトノ六重奏団。来日公演をNHK-FMで聞いてあっけにとられた記憶があります。メンバーは替わったものの相変わらずな演奏です。2枚目はそのジャンヌ・ロリオ女史のソロ・アルバムで。ソロだけじゃなく、オンド・マルトノ四重奏や、ピアノ入り、ピアノ&パーカッション入りも含めた6曲11トラック構成。3枚目は、カナダの女性オンド・マルトノ奏者のソロ・デビュー。1988年から94年まで、カナダのオンド・マルトノ・アンサンブル L'Ensemble d'Ondes de Montreal にいた人で、ここではジョリヴェを初め自作を含む7曲を演奏しています。ソロは1曲だけで、あとはピアノかテープとの共演。テープと絡む自作曲は、ありきたりと言うか優等生的であんまり面白くありません。同じテープとの共演でも、Gilles Gobeilの曲なんかのほうが、ライ・クーダーの傑作サントラ「トレスパス」を思わせる仕上がりで私は好き(「トレスパス」はTVの音効さんが使いまくってますね)。こういうポップ・アバンギャルドなほうにもっと行ったほうがいいんじゃないかなぁ。
 結局、これら3枚を聞いて思うのは、語法がパターン化されてしまっていること。いつまでもメシアンやジョリヴェじゃしょうがないでしょう。いわゆる「現代音楽」の枠の中でやってたんじゃ突破口はないように思います。オンド・マルトノは、即興演奏やロック・バンドの中のほうが威力を発揮する楽器だと思うんですがね。サーストン・ムーアなんか、オンド・マルトノ好きそうだし。
 

●Leopold Stokowski conducts : Cowell, Goeb and Weber
                           [Citadel CTD 88123] (1952-57)

Leopold Stokowski conducts  ストコフスキーが Henry Cowell、Roger Goeb、Ben Weberの3人の作品を振った4枚のアルバムのコンピレーションです。原盤は、Cowellが57年のCRI盤、Goebが52年のRCA盤、Weberが54年のRCA盤とCRI盤です。いずれもモノラルですがRCA盤はテープ・スピード30ips(76cm/s)で録られたもの。マルチ・マイクを活かした「オン」なCRIと、広い音場感を活かしたRCA、録音のスタイルは対照的ですが、どちらも優れた録音です。残念ながらオリジナルのエンジニアのクレジットはありません。CDマスタリングは70年代のダイレクト・カッティング盤でも有名なブルース・リークです。売り場としては、現代音楽のコーナーか、ヒストリカル・コーナーがあれば、そこのストコフスキーのところでしょうか。

 

 

目次に返る