Handmade Project タイトル

★☆第5回【ファンタム電源付きマイクヘッドアンプ】の製作☆★

 ことの起こりはこうだ。言い出しっぺは僕じゃない……というのはセリーヌの名作「夜の果ての旅」の冒頭だが、それとは全然関係なく、今回の製作のコトの起こりはアトランタ。先日のヤになるほど「盛り下がった」開会式と、ワザトらしい閉会式(劇団四季がつまらない理由がわかった!)の長野オリンピックではなく、その前のアトランタから話は始まる。
 アトランタからのテレビ中継では、まったく新しい発想によるスポーツ音声の収音が行なわれていた。これまでの客席にただマイクを置いたような音ではなく、もっと積極的な「テレビの音」を作る試みがなされた。そのために、競技音の収録には実験的・前衛的ともいえるマイク・セッティングが行なわれていた。
 たとえば棒高跳び。選手の助走路に沿ってバウンダリマイクをいくつもセットして足音を拾う。棒が突かれるカップの中には小型コンデンサマイクが仕込まれ、棒の鋭い衝撃音を得る。空中に舞う選手の風切り音は長いショットガンマイクで収音し、飛び越すバーを支える部分にも小型コンデンサマイクを置いて、飛越に失敗したときにバーが外れる音を捉える。さらに着地マットの中にも中型のコンデンサマイクを仕込んで、ドスンという着地音を鮮明に拾う……といった具合。
 こういった手の込んだマイク・セッティングは全競技で行なわれた。トラック競技ではバウンダリマイクが多数採用され、トラック全周の足音を拾っていたし、プールでは必ず水中マイクが使われ、選手が息を吐く音まで収めていた。
 水中マイクはプール以外にも使われた。圧力マイクの応用としてはコロンブスの卵みたいだが、自転車競技では走路の床下に水中マイクを密着してセットし、タイヤの走行音をリアルに捉えた(前橋競輪でも採用したらどうだろう)。重量挙げではステージ下に置かれ、バーベルの落下音を重々しく捉えていた。
 こういったヘンなマイク・セッティングを書き出すときりがない。ソフトボールではベースの中にも小型コンデンサマイクが仕込まれたし、室内競技では、たとえば鞍馬のウマの足にマイクを取り付けていた。これらすべてのマイクセッティングは、「テレビでしか味わえない競技観戦」をめざし、それに成功したと評価されている。
 マイクのオペレートも凝りまくっていた。アーチェリーの音はすべてショットガンマイクで収音されたが、よほど巧妙なオペレートだったのだろう、弓が引き絞られる音、矢が空中を飛ぶ音、的に当たる音が(ステレオで!)生々しくリアルに捉えられた。音に関心のある人なら誰でも感動すること保証付きだ。
 もっとも、これらの「国際音声」をどの程度オンエアに使うかは各国放送局の自由だったため、我がNHKは極端に低レベルに抑えてしまって、代わりにゴミのような解説のシャベリを被せていたのは残念(あらためて、絶対に視聴料は払わない!)。今回の長野大会の音では、NHKも少しは反省したのか、それともアトランタの生音を聴き直してビックリして考え直したのか、少しはマジな競技音を拾っていたが、その多くは「アトランタ的手法」で収音されたとしか思えない。少なくとも収音のポリシーはアトランタそのものと言ってもいい。

 アトランタからの国際映像・音声はIOCの下部機関のAOB(Atlanta Olympic Broadcasting)が制作した。その音声部門の総コーディネーターはデニス・バクスターという人。音声の著作権者というか、著作者というかはIOC・AOBではあるけれど、「音」のポリシーを固め、実質的に「音」を作っていたのは彼と彼のチームだった。まあ良い意味での狂気の集団! バクスター氏はESPNでも仕事をしていて、インディ・カートやNHLも彼の音だという(納得)。
 氏にはかなりの権限があったらしく、マイクの選定も大幅に任されていた。アトランタでの公式スポンサーは松下だったため(長野もそう。業務機材に関して、ソニーはもう宣伝する必要ないからね)本来なら松下のマイクをメインに使うべきところだけれど、どういう経緯でか競技音用のマイクにはオーディオテクニカ(以下「AT」)が選ばれた。だから、全世界の人が聞いていたアトランタの音のほとんどはATのマイクで収られていたことになる。ドイツでもアメリカでもない、日本の「オーディオテクニカのマイク」でだ。
 一言付け加えるなら、ATの製品は日本国内で不当に低く評価されていると思う。マイクとヘッドフォンに関しては、超高級品(ATではほとんど作っていない)を除けば、世界最良メーカーの一社なんだけど……。バクスター氏が「品質本位」で選択した結果がATだったことになる。
 実は私もこのプロジェクトの末席の末席にカラませてもらっていた。ギャラなど問題外。面白いことを見逃がすテはない。だからアトランタ終了後、バクスター氏が来日した際にはインタビューにも立ち会わせてもらったし(小沢も呼んだ。呼ばなきゃ後で恨まれる)、個人的にも少し話ができた。率直な感想として、バクスター氏は「変態音屋」の親分みたいな人で音楽にも強そう。元々は録音から入ったと言っていたし、今一番したいのは「フェンダーのギターが出来上がるまでの全工程をビデオ化すること」だという。何となくわかるでしょ。そんな人。
 氏が持参した、生の国際映像・音声のビデオをATのスタジオの巨大スクリーンで見た。上記のアーチェリーの音には目もくらむ思い。映画のようにポスト・プロで音を付けたならともかく、ライヴのステレオ収音で、矢が風を切る音を実に見事に捉えていた! ぜひ自分でもやってみたい、と思ったのが、今から思えばコトの起こり。バウンダリが応用範囲の広いマイクであることは、以前から実際に使って知っていたけれど(知らない人はソク試そう。ATの単一指向性の大きいやつが最良)、ショットガンマイクの威力は、このとき初めて知った。AT4071aそこで、さっそく1本調達したのがアトランタでも活躍したAT4071aというロングタイプのショットガンマイク。昔S&R誌で作ったマイクヘッドアンプ(AC仕様)につないで野外のガヤを録音したり、かなりの高空を飛ぶヘリコプターの音を聞いてみたり、いろいろ遊んでみた。すごいですねぇ、これは。まさにショットガン。超指向性で音軸上の音しか収れないと言ってもいい。子供の運動会にでも持ち出して8ミリビデオにつなげば、ズームインした映像と同じフレームの音が収録できそう。また、その趣味はないけれどバード・ウォッチングにも、夏の夜の公園での会話収録にも(!)最適だと思う。
 ところがこのマイク、あまりに高級すぎて乾電池の電源には対応していない。動作最低電圧が12Vなのだ。これは構造がエレクトレットではなく、内部にDC-DCコンバータをもち、ちゃんと成極電圧を作っているためと思われる。業務用のビデオカメラは12V動作なので問題はないけれど、民生機とつなぐには専用のファンタム電源ボックスのようなものが必要になる。これは簡単に作れる。抵抗とコンデンサが2個ずつ、それに入出力コネクタがあればいい。簡易型ファンタムBOX図のとおりの回路で、電池を2個にして18Vにすれば、とりあえずマイクは動く。でも、せっかく「箱」を作るのなら、もう少し多用途にしたい。生録でもっと便利に使えるように、そしてできればステージやスタジオでも使えるようにしたい……で出来上がったのが今回の「ファンタム電源付マイクアンプ」っていうこと。これを使えばサンプリング音源用の生音録りにマジなマイクが使えるようになるし(ポータブルDATやウォークマンプロにファンタムは付いてない)、ゲインも稼げるのでS/Nの向上も期待できる。ステージやスタジオでは、マイク直下型のレベルコンバータ(マイクレベルからラインレベル)にもなる。詳しくは次項で書く。

 バクスター氏は3月の茂木でのインディ開催にも来日すると思う。会いに行きたいが(エンジン音の収り方を知りたいのだ)まぁず無理だろうなぁ。また、次回のシドニー・オリンピックの音もバクスター氏が手がける予定だそうだ。もちろんマイクはATだろう。誰か私をシドニーに連れていっておくれ!(バックステージパス付きで!)。

■MIC HEAD AMP■
MIC HRAD AMP 左側面写真 MIC HRAD AMP 右側面写真
   入力側パネル(左側面)    出力側パネル(右側面)
 オリンピックがどうの、ショットガンマイクがどうのと、いろいろ書いたが、コトの起こりを説明したまでで、このアンプは要するに「マジなコンデンサマイクも使える、ファンタム電源付きポータブル・マイクヘッドアンプ」だ。内蔵した2本の006Pでも動くし、12Vから25V程度の直流を外部から与えてもいい。 パネルが見えるところで、ざっと機能を説明しておこう。
 まず入出力はバランス。それにアンバラの出力もある。ファンタムはもちろんオン/オフできて、オンのときにはLEDが点灯する。入力キャノンの隣にあるのが(見えにくいけど)LED。その隣がファンタムのSW。次のSWはセンタ・オフのトグルで、ゲインを3段に切り替えている。とりあえず3倍(+9.6dB)、20倍(+26dB)、200倍(+46dB)に設定してあるけれど、後述するインストルメンテーションアンプのゲイン計算法がわかれば自由なゲインに変更可能。
 フォーンジャックはアンバラ出力。ここには常にバランス出力の2.2倍のレベルで信号が出てくる。これも設定変更可能。パネルの端でツブれて見にくいのが外部電源入力端子。ここにプラグを差すと、中の006Pは切り離されて、回路は外部電源で動く。外部電源の最大電圧は今のところ25Vだが、基板上のコンデンサ(2個)の耐圧を上げれば30Vまでは加えられる。もちろん電源電圧が高いほど、このアンプのDレンジは広くなる。だから、野外でハリキリたい人は小型の鉛蓄電池(13.5V)を2個買ってきて、直列にしてこの端子につなげばベストだろう。
 右側のパネルには出力のキャノンとパワーSWしか付いていない。「パワー・オン」のLEDは無い。006P動作時を考えて、消費電流を少なくしたかったからだ。忘れないうちに書いておくと、このアンプの消費電流は電源電圧18V(内部電池時)では約23mA+α、外部電源で電圧が12Vのときには約20mA+αになる。「+α」とはファンタムでマイクに送られる分。まあ3〜5mAもみておけば充分だろう。にしても20mA以上の消費電流となると、006Pだけでの長時間運用には少々つらいものがある。外付けのバッテリかAC電源を考えておきたい。で、次回はこのアンプにも、これまで作ったエフェクタや楽器にも使える「電源」を作る予定。(ただの「電源」だけじゃ面白くない。何か工夫したいもんだ)

■インストルメンテーションアンプ■

 もしもアンプのゲインが固定でもいいのなら、そして出力がアンバラだけでいいのなら、マイクアンプの設計は非常に楽。そもそもオペアンプとは「差動増幅アンプ」だからだ。オペアンプの非反転入力にホット信号を、反転入力にコールド信号を入れて差動入力回路を組めば、出力には増幅されたアンバラ信号が出てくる。ところが「ゲインを可変にしたい」「バランスのままの出力も得たい」となると、コトは少々面倒になる。ホットとコールドを別々の増幅系で処理するテもあるけれど、各増幅系のゲインを厳密に同じにしなければならない。これは実に大変なことだ。ゲインを可変するのに二連VRを使ってもいいけれど、普通の二連VRには相互誤差があるから非常に危ない。ここはぜひとも単連VRなり、1本の抵抗を切り替えてゲインを変えたい……で、インストルメンテーションアンプという舌を噛みそうな名称の回路が登場する。

インストルメンテーションアンプの基本
 これはあくまでも基本回路。回路の電源もプラス/マイナスの二電源として描いてある。
 つまり、バランス信号を受ける2個のオペアンプの反転入力どうしが交流的につながっているところがミソなのだ(「交流的に」の意味がわからない人は、この部分は無視していい)。回路のゲインはR1とR2で決まる。しかもR1は1本しかないから、これを変えるだけでゲインが変化することになる。右側の式からもわかるだろう。でも、どうしてこうなるのか? ヒント……オペアンプの反転入力と非反転入力はイマジナルショートで常に同電位であり、上のアンプと下のアンプの反転入力に電位差があると、それはR1にかかってくる。ということは、上下のアンプともR1によって入力信号とは逆向きのバイアスがかかっていることになり……あとは推理してみよう。オペアンプを理解するには最適な問題だろう。
 この形式の回路は卓の入力部分に採用されている(もっとも、最近の安い卓はワンチップ化されているが)。R1をVRにすればゲインは連続可変し、マイクでもラインでもつなぎ込める寸法。簡単な回路の割には実用性は高い。ひとつ問題なのはR1に直列に入っているC。これは「回路を通る全信号を通す」ものでなければならない。しかもR1と直列になることでローカット特性をもってしまう。R1は、ゲインを大きくすればするほど小さな値になる(式を見て)。とすれば、Cの容量が充分に大きくないと低域がカットされてしまう。
 で、Cに求められる条件は、なるべく良質の(できればタンタルのような)コンデンサであり、容量が可能な限り大きいこと。10000μなんていうタンタルが手軽かつ安価に入手できて、基板に乗るくらい小型なら、迷わず使うだろう。でも、そんなものは無い。仕方がないから、なるべく程度の良さそうな電解を使う。容量の目安は図の右にも書いたとおり、R1の最小値が100Ωなら、Cは1000μ程度。もちろん大きければなおよろしい。しかし救いもあって、Cの両端にはほとんど直流電圧がかからないので、Cの耐圧は低くても構わない。6.3Vでも充分。そして極性は「不定」。どっちがプラスかわからない。だから適当に取り付ければよろしい。無極性コンデンサなど使う必要はない。
 アンバラ出力は、上下のアンプのホット/コールド信号を「差動増幅」の教科書みたいな回路で受けて作り出す。R3とR4でゲインは決まる。ということは、バランス出力とは無関係な信号レベルでアンバラ信号が得られることになる。といって、ここで100倍ものゲインをもたせてしまうと、入力可能なバランス信号の上限が低くなって使いにくいことこのうえない。特殊な用途以外では、この差動増幅部分のゲインは1〜3倍程度にしておくのが無難だと思う。
 これがインストルメンテーションアンプ。知っていればマイクのヘッドアンプなど簡単に作れる。私は今回、プラス/マイナスの二電源ではなく、単一のプラス電源で構成してみた。ゲインを決めるR1にはVRは使わず(スペースの関係で「使えず」)抵抗をスイッチで切り替える方法を採った。

■回路とパーツ■

 今回のアンプは、まあどちらかと言うと「中級者向き」かもしれない。ケース加工の面倒臭さとか配線の引き回しとか、初心者がつまづきそうな箇所がいくつかある。でも、マイク片手にサンプリング用の音を録るなんていう高級なことをする人は、ハード技術として、このくらいのアンプは作れなければ! そう思わない?
 そもそも十数年前、「弾けない人にも弾ける」キーボードが登場したときから、私は気分が悪かった。キーボードをちゃんと弾きたければバイエルから習え!だろう。次に気分が悪くなったのは、電気仕掛けのギター用チューナが登場したとき。自分のギターのチューニングくらい自分の耳でやれ!なのだ。最後に吐き気がするほど気分が最悪になったのは「お手軽DTM」の出現。そりゃDTMは、音楽の何たるか(私には確たるコトはわからんが)を知る人が使えば創造性をさらに発揮できる手段だろう。だけど楽譜も満足に読めず、1種類の楽器も弾けず、ヴァイオリンとチェロの区別もつかないようなヤカラが、金にまかせて機材を買い込み、サンプラなどを操作して(ただボタンを押すだけを「操作」というなら)クソのような楽曲らしきものをひり出しているのには、どうにも我慢が出来ない。
 DTMの功罪を考えるとき、現在のところ「罪」の方が比重が重いような気がする。たしかに音楽の裾野は拡がったのかもしれないが、反面、音楽の質は、拡がった分だけ低下しているように感じる。今の日本の新しいバンドが、ごく一部の例外を除いて全部ゴミなのは、DTMと無関係ではないだろう。
 だからして、電気仕掛けで音楽を志す諸君は、基礎技術として、この程度のハードは自作できなければならないと考える。じゃなきゃ機材に遊ばれているだけだぜ。
 んじゃ回路、いってみよう。
  MIC HEAD AMP回路図
gif形式回路図ダウンロード 印刷用の回路図。
少し大きめに
描いてある。
    CANDY6形式回路図ダウンロード CANDY6形式の回路図。
LHAで圧縮。

 例によって図面のダウンロードはホットイメージから(右クリック)がお薦め。緑色は印刷に耐えるように大きく描いてあるgif形式、ピンクは私が原図を描いたCANDY6のC6形式をLHAで圧縮したもの。
 いろいろとオカザリはあるものの、骨組みは上に出したインストルメンテーションアンプの基本と同じ。A1a,bがバランスラインを受けてゲインを決める部分、A2bがアンバラ信号を作るところにあたる。A2aでは、このアンプは単一電源仕様のため、オペアンプを二電源仕様のように使うためのバイアス電圧を発生させている。電源電圧のちょうど半分の電圧だ。オペアンプ君は、この電圧を「アース」と勘違いして、単一電源でも二電源と同じに動いてくれる。SOUND BOXシリーズでもバイアス電圧はあった。単に2本の抵抗で電源電圧を分圧してバイアスにしていた。バイアスが「電源電圧の丁度半分ピッタリ」でなくてもよければ、またバイアスラインのインピーダンスが多少高くてもいいのなら、抵抗分割で充分。でも今回はマイクアンプ。バイアスはきちんと押さえたいし、ヘンにノイズなどが紛れ込むのもイヤだから、もったいなくもオペアンプの1ユニットを使った次第。
 オペアンプは2個とも5532。電流は喰うし、あまり安くはないけれど、ここは音質最重視による選択。私は最初、クワッドの2060でやろうと思っていた。ところが小沢が「マイクアンプなら、やっぱり5532でしょう」と言い張るので、まあ、それもそうだから、こうなった。(言い出しっぺは僕じゃない) でも、小さな抵抗として、アンバラ出力用とバイアス電圧発生用のA2は4560でもよろしい、としておく。 どっちみちICにはソケットを使うのだから、興味のある人は差し替えて試してみよう。アンバラの音が、ごく微かに重めになるはずだ。
 回路をアタマから説明しよう。まずファンタム電圧はホット/コールドの両ラインに6.8kの抵抗を介して加えられる。どうして6.8kなのか私は知らない。他の機材が全部そうだから倣ったまで。ファンタム用の電圧は電源ラインから直では使わない。100Ωと10μのフィルタを通して高域(電圧の細かい揺らぎ=つまりノイズ)を落としてから使う。屋上屋を重ねるようだが安全第一だ。そしてファンタムがオンのときLEDは光る。ファンタムがオフだと6.8kはアースに落ちる。だからファンタムのオン/オフに関わらず、ここでは信号は6.8kで(交流的に)アースされている。
 オペアンプの入力も、やはり6.8kでバイアス(交流的にはアース)につながれているから、このアンプの入力インピーダンスは、ホット/コールドとも6.8kの2本パラで3.4kということになる。マイクアンプの入力インピーダンスをどの程度に設定するかは、簡単に言えば趣味の問題。2kでもいいし10kでも構わない。昔は律儀に600Ωにしていた(入力トランスだったもんね)。そう、マイクの出力インピーダンスと同じにする(マッチングをとる)「電力電送」の考え方でそうなっていた。今はインピーダンスのマッチングは行なわず、マイクの出力インピーダンスよりも高いインピーダンスで受ける「電圧電送」が主流。だからマイクの方も出力インピーダンスは600Ωとは決まっていない。150〜600Ωくらいの範囲でバラバラ。どうせマッチングは行なわないのだから適当でいいのだ。といって、「高ければいいんだろう」とばかり、アンプの入力インピーダンスを100kなんかにするのはNG。あまりのミスマッチは音質変化を惹き起こす。いいところ10kどまりだろう。
 と、「インピーダンス」の文字が並んだところで、これがサッパリわからない人も多いはず。インピーダンスの概念を掴むためには、ある日突然開眼しなければならない。座禅で「悟る」のに似ていなくもない。読めば絶対にわかる参考書は無い。まあ、先月書いた私の本なら、いくらか助けにはなるだろう(極論すれば、あの本は「コンデンサ」と「インピーダンス」を理解してもらうために書いたのだから)。
 本筋に戻ろう。ホット/コールドの信号には、入力部分に22μの無極性(NP)コンデンサが入っている。今回、手持ちパーツがあったので22μで我慢したのだが、本当ならせめて47μにしたい。取付スペースはあるから、コピーする人は47μにしよう。なんで無極性なのかというと、ファンタムのオン/オフによって、どちらの電極が高い電位になるかが変わるから。ファンタム・オフでは、オペアンプがバイアスに乗って動いているため、オペアンプ側が+になる。ところがファンタム・オンだと、キャノン側に電源電圧が加わり、これはバイアスよりも高いので、コンデンサのキャノン側が+になる。こういう場合には無極性を使うしかない。もっとも、普通の電解コンをBack to Backにする方法もあるけれど、パターンは要変更だし、コストも高くなる。
 ゲインを変えるR1にあたるのが縦に描いてある22kと、SWでパラになる2.2k、220Ω。普通、卓では22kの部分には、VRと低抵抗を直列にして使う。VRが0Ωになったとき、低抵抗が残って、それとR2の比率で最大ゲインが決まり、VRを上げていくとR1が大きくなってゲインは下がる。そんな方法だ。ここで問題になるのはVRのカーブ。ゲインをスムーズに変化させるにはCカーブを用いる必要がある。Cカーブは入手が難しいし、今回は卓ではないのでゲインの連続変化は断念し、SWによる3段切り替えにした。ただ、SWには「センタ・オフ」を使う。真ん中で直立するやつだ。これで3段切り替えが実現する。
 R2にあたる抵抗を22kにしたため、R1は図の定数になった。これで約10dB、26dB、46dBに切り替わる(厳密には少しずつ異なるゲインになる)。このゲイン設定が気に入らない人はR1と、それにパラになる抵抗を変えてもよろしい。各自使いやすいゲイン設定にしよう。計算式はもう出してある。ここで注意すべきは、まずR2の2本の抵抗。図では横向きの2本の22kだ。これらはピッタリ22kでなければならないわけではない。21.5kでもいっこうに構わない(ゲインは変わるが)。それより問題なのは、2本の抵抗の相互誤差を極力ゼロにすること。簡単に言えば同じ抵抗値にする。1%抵抗を使ってもいいが、それよりも100本入り袋(150〜200円!)を買ってきて、1本ずつテスターで測って、同じ抵抗値のペアを作っておくといい。これはR3、R4にもいえる。
 もしもR1を変更した人、特に220Ωよりも小さくした人はCの値にも注意。470μでは不足する場合もある。R1の最少抵抗値を100Ωになるなら、Cは1000μを使おう。でも、あまり欲張ってR1を10Ωなどにしてゲインを稼ぐのは問題。ゲインは上がってもS/Nが悪くなること必至だ。
 オペアンプのフィードバック抵抗とパラに入っている22pはオマジナイ。役目としては発振止めと、有害な超高域を落とすものだが、出力をオシロで見て、問題がなければ取り去ってもいい。逆に発振したり、ヘンな超高域成分が残っているようなら、22pではなく100pにしてみよう。それでもヘンなら、原因は他の部分にある。
 すごいね今回は。パーツ1本ずつの説明をしてる。こういうのって、うっとうしい? それとも役に立つ? よかったら教えて。

 さて、A1aとbで増幅されたバランス信号は出力のキャノンに出てくる。あっ、そうだ。今回のアンプは「2番ホット」を前提に設計してある。でも世の中には「3番ホット」のシステムもあるので、そのときには入出力とも、キャノンの2番と3番を入れ替えよう。片方だけではダメだよ。
 オペアンプの出力とキャノンをつないでいる22μは、出力信号が数KΩ以上のインピーダンスで受けられる前提の定数。もしも本機の出力をつなぎ込む卓の入力インピーダンスが5kΩ以下なら、22μの代わりに47μを使おう。そうしないとローカットになる。ここのコンデンサは普通の有極性でいい。電圧関係は、オペアンプ側が高いと決まっているから。
 これでバランスライン関係はおしまい。アンバラに話を移す。
 A2bは典型的な差動増幅回路。バランス→アンバラ変換回路だ。ここのゲインはR3とR4(各2本ずつ)で決まる。このアンプを生録で使うのなら、アンバラ出力がメインになるはず。となれば、ここからはラインレベルに近い信号が出てきてほしい。かといって、あまりにゲインをとるとマイクからの許容入力電圧が小さくなる(わかりますね? 大音量が入ると波形のピークがクリップして歪みになる)。そこで設計では、わりと中途半端に2.2倍のゲインにとどめた。気に入らない人は2本のR4(現在は22k)を増減していただきたい。ゲインが1でいいのなら、2本のR3(現在10k)を22kにすればよろしい(パーツも同じになるので経済的)。
 アンバラ出力は、まずラインとして扱われるだろう。接続先機器の入力インピーダンスは10kΩ以上のはず。だから出力のコンデンサは10μにした。これは、特別のことがなければ変更の必要はない。
 A2bの周辺で注意してほしいところが1ヶ所ある。非反転入力から下に向いている22k。これは前記のインストルメンテーションアンプ原理図ではアースに落ちていた。ここでは「バイアスにつながっている」。つまりA2bも単電源で動いているため、これがアースに落とされると電源電圧関係が狂ってしまう。バイアスにつながれて初めて、オペアンプは正常に動く。単電源動作特有の接続だ。二電源動作では素直にアースに落とす。
 このように、本来二電源で動くオペアンプを単電源で動かすには、注意しなければならない点がいくつもある。初心者が陥りやすい罠だ。

 次に電源関係。このアンプは、基本的には2本の006Pを直列にして電源にしている。使用する006Pだが、消費電流が20mA以上あるので、あまり安物では動作時間に不安がある。せめて黒いタイプを使おう。アルカリなら文句はないが、NHKのように予算が潤沢ではないアマチュアには財政的につらい。アルカリを使うのなら、いっそのことニッカドの方が経済的だろう。7.2Vの006P型ニッカドでいい。2本直列で14.4Vになるから問題はない。ま、ニッカドにしても、謳い文句のように「500回の充放電」など、私の経験ではまず不可能にしても、50回も使えばアルカリはおろかマンガン電池よりもランニング・コストは安くなる。
 このアンプは内蔵電池での動作を基本に設計してある(外部電源だけで使うのもの自由だけど)。そのため、外部電源端子(DCジャック)にプラグを差さない限り、内蔵電池動作になる。プラグを差すと外部からの電圧で動くようになるのだが……これが大問題。というのも、DCジャックの形状、接点にいろんな方式があるからだ。少し前までのジャックでは、芯棒と外側スリーブに接続する端子の他に、「プラグが差さっていないときには芯棒に接続する」端子があった。昔は芯棒をアースに、スリーブをプラス電圧にする仕様が主だったからだろう。今の製品にもいろいろあるようだが、私が入手したのは芯棒の端子の他に、スリーブ用端子が2個あり、プラグが差さっていないときには2個が接続していて、差さると接続が切れて、1個の端子がプラグのスリーブにつながる……ややこしいな……もの。つまりプラグの抜き差しでアース側が切り替わる製品。多分(本当に多分)現在市販されているDCジャックは、私のものと同じ仕様が主流だと思う。でも買う際には充分注意を。
 要するに電源プラグが差さっていなければ内蔵電池が生き、プラグが差さると外部電源になればいい。仕様の違うDCジャックを買ってしまった人は創意工夫で解決してもらいたい。ただしくれぐれも外部からの電圧と電池のプラス電圧が直接つながらないように。つながると非常に危険だ。
 また、これはひとつの可能性だが、DCジャックをもうひとつ増設すると、電池にニッカドを使った場合の「充電端子」になる。やりたい人は考えてみよう。パネル配置を考えると、ギリギリだがもうひとつDCジャックを付けることも可能だから。
 この項の最後に、アースの話。回路のアースは、信号レベルの一番低いところでケースに落とす、という鉄則は前に書いた。このアンプでは入力キャノンの留めネジにタマゴラグを付けて、キャノンの1番ピンにつないでアースポイントにしている。本当はこれだけで充分というか、これだけの方がいいのだが、携帯型でもありビスがゆるんでアースが切れる可能性も見過ごせないから、念のためにアンバラ出力のジャック部分でもケースにアースを落としている。こうするとアースループができ、ノイズの増加、S/Nの悪化もありえる。あまり良いことではないが、まあ安全第一に組んでみた。気になる人はアンバラ出力ジャックでのアースは外してしまっても構わない。
 あっ、最後じゃなかった。もうひとつ。現在のパーツだと、外部電源電圧の上限は25Vまで。電圧が25Vもあれば、かなり広いDレンジのアンプになる。しかし5532の最大動作電圧は、単電源なら36Vまで使える。また電池にしても、自動車用バッテリは13.5Vで、2個直列にすれば27V。これを使えるようにするには2個の電解コンデンサの耐圧を上げてやればいい。電源ラインの2個の電解を耐圧35Vのものに取り替えるのだ。どのコンデンサがそれに当たるかは、基板のパーツレイアウト図に★印を付けてある。これで30Vまでの外部電源が使えるようになる。さらに、ICの限界の36Vまで使いたい人は、★印のコンデンサの耐圧を50VにすればOK。ただ、あまり定格メいっぱいでICを使うのは安全とはいえないので、まあ30Vでやめておいた方が利口かもしれない。

■ 製 作 ■

 今回の製作はラクチンとは言い難い。最大の原因は携帯性を良くしたり、足下に置いても邪魔にならないようにするため、小さなケース(タカチYM-130)を選んだところにある。また、キャノンの穴あけも難物。ラクに作りたいのならYM-130をやめて、もっと大きなケースにすれば製作は一段と簡単になり、SOUND BOXシリーズと同程度になるだろう。発振しやすいなどの要注意箇所は特にない。配線にはシールド線は不要。ただただケースが小さいので「うざったい」だけなのだ。ケースを大きくしても性能に変わりはないから、自分の腕と相談してケースを決め直しても悪くはない。その点、よろしく。
 このアンプはマイク1本用(モノラル)。ステレオ収音したい人は、大きめのケースに2台分を組み込めばいい。信号系は基板ごとに独立しているから、単純に2台作ると思えば難しくはない。ただDCジャックと電池などの電源系統だけが共通になる。そんなことを頭に入れて、さあ、製作の説明!

★基板の製作

 基板のサイズは40.6×66ミリ。例によってパターンは簡単だから手描きで充分いける。今回はICを使うので、サイズは正確に。といっても2〜3%の狂いは許容範囲だろう。8ピンのICがきちんと差さればいい。

プリントパターン gif形式プリントパターン
gif形式の印刷用プリントパターン。
少し大きめに描いてある。

CANDY6形式パターン
CANDY6形式のプリントパターン。
LHAで圧縮。


 ダウンロードの方法は回路図と同じ。この画面から落としてもいいけれど、できれば右側のホットイメージから右クリックの方がベター。少し大きめに描いたgifファイルとLHAで圧縮したCANDY6形式の元図がある。CANDYでなら原寸でプリントアウトできる。

 次はパーツレイアウト。これもダウンロード用に2種類のファイルを用意した。CANDY6を使える人は、非表示になっているレイヤを「表示」にすると、パーツ面から透視したパターンが見える。

基板パーツレイアウト 基板写真
gif形式基板パーツレイアウト。印刷用
 gif形式のパーツレイアウト。
 印刷用。

CANDY6形式パーツレイアウト
 CANDY6形式パーツレイアウト。
 LHAで圧縮。

 面倒なのは配線だけで基板自体は、どうってことない。図に書き込み忘れたこと……右側の2個の電解コンデンサは無極性(できれば47μにしたい)。470μの電解は、あとでゲイン変更のため定数をいじる可能性のある人は、最初から1000μにしておこう。耐圧が低ければ(6.3Vでいいのだ)このサイズでも1000μはある。上述したが、このコンデンサの極性は不問。どちらをプラスにしてもいい。
 ★印の2個の10μは、とりあえず「耐圧25V以上」に指定してある。これを35Vや50V耐圧にすれば、上に書いた30〜35Vの外部電源が使えるようになる。
 ICには必ずソケットを使用する。4560と差し替えて音を聴き比べるためというより、この種の機材ではICの交換が簡単にできなければならないから。ICは方向を間違えないように。型番の文字が図と同じ方向になるように差す。
 今回は、まことに致し方なくジャンパ線が3本もある(ジャンパは嫌いなのだ。ハンダ付け箇所が増えるだけトラブルも増えるから)。付け忘れないようにしよう。理想の基板とは、ジャンパが1本もなく、基板上全面がパーツで埋め尽くされている、そんな基板だと思っている(もちろん片面基板での話。両面基板は邪道である!)。あくまでも私の理想。それを目指して設計しているつもりなのだが、多分、死ぬまでに1枚も作れないだろう。
   さて、基板が完成したら、回路図に青い字で書いてある穴番号を参考にして動作テストをしてもいい。ゲインとファンタムのSWはつながなくてもいい。基板穴3と13はアースだから、どちらかに電池のマイナスをつなぎ、17はプラス電圧入力だから、ここに18Vをかける。ホットかコールドの入力(基板穴1か2)に信号を入れて、各出力(14、15、12)をオシロで見てみる。「おやっ!」と思うかもしれない。たとえばホットにしか信号を入れていないのに、コールド出力にも信号が出てくる! 実はそれで正解。ホット信号とコールド信号を受ける2個のオペアンプの反転入力同士はつながっているのだ。これがインストルメンテーションアンプの面白いところ。信号さえ出てくればしめたもの。基板は完成と思っていいだろう。

  ここで恒例の初心者用、カラーコードの読み方など……。

   抵抗カラーコードの読み方
     100Ω=茶黒茶、220Ω=赤赤茶、2.2k=赤赤赤、3.3k=橙橙赤、6.8k=青灰赤、
     10k=茶黒橙、22k=赤赤橙、100k=茶黒黄
      (金色の線は精度5%を表わす。どうでもいいので無視する)
   コンデンサの表記
     0.01=103

★ケース加工と配線など

アンプ正面写真  SOUND BOXシリーズとは逆で、このアンプでは表面パネルにはいっさい穴をあけない。インレタを貼るだけ。銀色のパネルはただのフタになる。最初の方の写真でもわかるように、ケース加工は底板(YM-130なら黒い箱の方)だけだ。
 ところが底板の側面(操作パネルになる)は、高さが公称30ミリだが、実際に使えるのは27ミリ程度しかない。この部分の工作が一番うっとうしい。とりわけメスのキャノンの幅は26ミリあるから、慎重の上にも慎重に穴位置を決め、パネルからはみ出さないように、きれいに水平に付くようにしなければならない。また、取付穴の直径は25ミリ程度あり、シャーシパンチも使えない構造になっている。私は気長にリーマーっていたが、ついにシビレが切れてハンドニブラでガチャガチャと切り抜いてしまった。ハンドニブラの使い方には多少の経験を要する。初めて使う人は適当なアルミ板で練習してから本番に取り掛かろう。注意することは、絶対に必要以上の大穴をあけないこと。ことにキャノンを留めるビス穴の位置はしっかり確認して、そこまでは切ってはいけない。ビスが効かなくなってしまう。……これだけで全製作の半分くらいの精力を消費する。
 SWやジャックの配置は、実際に現物をケースに入れてみて決める。基板を置く位置、電池の収納スペースにも留意しよう。それから、細かいことだが、電池がどうガタついても、SWやジャックの端子と接触しないような配置にする。振ると鳴らなくなるアンプでは困る。上の写真で、各パーツの配列は大体わかるはず。YM-130を使う限り、これがもっとも合理的な配列だと思う。
ショートタイプのトグルSW  SWは全部3p。パワーSWだけは2pでも可。そしてGAINのSWにはセンタ・オフを使う。センタ・オフは、昔は特殊パーツで高価だったけれど、今では安いし大きなパーツ屋ならどこにでもある。
 で、そのトグルSWだが、できればバーの短いタイプがよろしい。参考までに普通の製品と比較した写真を出しておく。今回、私は普通の製品を使ったけれど、短い方が壊れにくいし、間違って引っかけてSWが動いてしまう事故も少なくなる。第一、パネルからの飛び出しが目立たないので、見た目にも美しい。ショート・タイプは探せばいくらでも見つかるはず。当然センタ・オフもある。美観・機能性からもお薦めする。
 パネルへの文字入れはいつもの通り。黒いパネルには白い文字を入れるのは言うまでもないだろう。私は安売り屋で買った100円インレタで済ませたが、I・Cやマクソンにも白文字はある。探してみよう。

 それじゃ結線。
 とにかく狭い場所に配線を引き回すので、よく考えて。そして今回は三つ編み・ヨリ合わせの指定がかなりある。必ず守ってほしい。
 キャノンへのハンダ付けは20W程度のコテでは熱量不足。気長にやるか、40W程度のコテを使おう。いくらパーツ類が小さくなったからといって、やはり40〜60Wのコテは1本持っていたい。安物で結構。ただ、コテ先だけ(別売りしている)は少し高いのを買っておくと一生使える。

ケース内結線図 ケース内の写真
 
 
gif形式結線図。印刷用
gif形式の結線図。
 
CANDY6形式結線図
CANDY6形式結線図。
LHAで圧縮。
 図がゴチャついていて一部の配線は描ききれなかった。で、フォローしておくと、基板穴7と8からはファンタム・オンを表示するLEDに行く。7がアノードで8がカソード。LEDの足へのハンダ付け部分には必ず熱収縮チューブを被せて絶縁しておこう。19と20には電池スナップからの線が入る。ここはスナップの2本の線をただつないでいるだけなので、入れ替わっても構わない。
 そうそう、電池スナップで、これまた問題がある。電池自体の高さは25ミリだから、ケース内に余裕で入る。でもスナップを付けると30ミリになり、普通ではケース内に収納できない。ただ、電池スナップにもいろんな製品があり、カチカチに硬いのからフニャフニャの柔らかいのまで各種ある。ここにはフニャフニャを使おう。パネルで押しつけるとグニョと曲がってくれて、うまい具合にケース内に収まる。しかもパネルに押さえつけられているから電池がガタつかなくなる。一石二鳥と言うべきか。
 もうひとつ一石二鳥。電池を収納する方向は、必ずスナップをDCジャック方向に向けること。そうすると、仮に電池が動いても、DCジャックに当たるのはスナップのビニール部分になり、ヘンなショートは起きない。また、押さえつけられるスナップがパネル中央付近にくるので、押さえつける力が一番強く、パネルが浮き上がったりしない。災い転じて福と成そう。
 結線で不安なのはDCジャックの端子だろう。まず、パワーSWからつながっている端子は芯棒(プラス電圧がかかる)の端子だ。あとの2個の端子は、DCプラグが差さっていないときにはジャック内で接続している。プラグが差さると接続しなくなり、基板穴18とつながっている端子がプラグのスリーブの端子になる(このとき、もう片方の端子は、どこにもつながらずに無接続になる)。諸君のDCジャックが、これと同じ構造であることを祈ろう。
 はい、これで製作はおしまい。かなり苦労すると思うけど、苦労以上の価値はある。苦労したくないなら、前述したようにケースを大きめのものに代えて作れば楽勝。また、電池にはキツいが、2チャンネル仕様にしてステレオ収音も面白そう。

  ■使い方と使用感■

 小型マイクアンプが欲しいような人は、当然ながら基本的な使い方もわかっているはずなので、特に説明は不要と思う。つないで使えばいいだけ……というのも、あまりにつれないから、本機の特徴をいくつか書いてみよう。
 本機にはどんなマイクでもつなぎ込める。ファンタム付きだからコンデンサマイクはもちろん、ダイナミックマイクも、もちろんOK。ただし、マイク出力がバランス仕様でなければならない(出力がフォーンプラグのマイクなど、最初から使ってはいけない)。また、スタジオ専用超高級製品で48Vファンタムにしか対応していないマイクはつなぎ込めない(そういうマジなマイクは、やはりマジな卓で受けるべきだ)。  出力にはバランスとアンバラの2系統がある。これらは独立しているため、同時に使える。ただ、アンバラ出力を使っている際に、バランス出力のコネクタをつなぐと、その瞬間にクリックノイズが出るかもしれない。回路図を見ればわかるだろう。バランス出力ラインにバッファが入っていないからだ。だけどそもそも、収音中にプラグやコネクタの抜き差しをするなんて反則だから、そういうことはしてはイケナイ。
 ゲインのSWは中立位置で最少ゲインになる(今回の定数なら約+10dB)。このSWは動作中に切り替えても構わない。ノイズは出ない。ファンタムのSWは、いろんな卓のものとまったく同じ。ファンタム電圧は、内蔵電池使用時には18V、外部電源(最大36V)使用時には、その電源電圧になる。動作中に内部電源と外部電源を切り替えると(つまりDCプラグで外部電源を使ったり外したりすると)、一瞬動作が不安定になる。マイクへのファンタム電圧が変わり、回路内部の電圧構成も変わるから、これは当たり前の現象。電源の切り替えは、いったんマイクをオフって行なうべし。
 LEDはファンタム・オンの表示のみ。パワー・オン表示のLEDは付けていない。消費電流節約のためだ。だからパワーSWを切り忘れると電池から20mA以上の電流が流れ続け、一夜にして電池は消耗する。くれぐれも切り忘れのないように。これが怖い人は、パワーSWの端子で基板穴の17に配線されている所から抵抗(3.3k〜4.7k程度)を介してLEDをつなげばパワー・オン表示になる(LEDのカソードはアースに接続)。
 ま、こんなところでしょう。あとは改造や定数変更など、自由にやってもらいたい。

 完成してすぐに、例のショットガンマイクをつなぎ、アンバラ出力から電池駆動のヘッドフォンアンプに接続して、冬の真夜中、ヘッドフォンを被って街をウロついてみた。オマワリに会わなかったのが幸い。そんな格好では、まず職質される。ゲインを上げてやると、普通では聞こえない音も拾える。遠くを歩く足音とか、ビルの換気口(エアコン?)の音、木造家屋なら中の会話も聞こえる(そういう趣味はないが、聞こえたものはしょうがない)。ただ、私が住んでいるのは一応市街地なので暗騒音も大きく、目的音だけを捉えるのは難しかった。その代わりにわかったことは、本機の残留ノイズは市街地の暗騒音よりも充分に小さいこと。山の中でならバードウォチング(バードヒアリング?)にも使えると思う。
 家に帰って、ガンマイクから普通の単一指向性マイクに付け替えて音色を調べた。ガキにしゃべらせてみたり、時計のカチカチ音を聞いてみた。アンプでのカラリングはほとんどない。強いて言えば5532の音になる。録音やPAにも充分に使えると確信した。
 以上は内蔵電池でのオペレーション。外部電源ではどうなるかというと、電源が電池の場合(ベータカム用の12Vニッカドを使用)は内蔵電池と同じ音になる。これ、当然ですね。次にAC100Vを整流し、安定化した15Vで試したところ、わずかに音が変わった。ノイズもわずかに増えた。といっても、電池との比較での話だから、あまり問題にはならない。PAでなら、そんな音の変化は事実上「聞こえない」。12Vのスイッチング電源も持っているけれど、試していない。というか、試す気にならない。スイッチング電源でオーディオ機器を駆動して、ウンザリしなかったことはないからだ。良質のオーディオ効きにスイッチング電源を使ってはいけない。
 結論として、このアンプの実用性は充分。これ以上の音を求めるなら、マイクアンプ専用の高級ハイブリッドICを使うか、ディスクリで組むしかない。電源は、シビアに言えば電池がベター。この次、秋葉原に行ったら、秋月で鉛蓄電池を買ってこよう。現有の業務用ニッカドと両方持っていれば不安はない。

 いつもは「ヘンな音」を探しているくせに、今回に限って「マジな音」の追求になってしまった。これはこれで、また面白い。「マジ」あってこその「ヘン」なのだから。
 次回は、ずっと上でも書いたが、これまで作った機材や、このマイクアンプに使えるAC電源ユニットを作る予定。三端子を使って誰にでも作れるようにするか、ディスクリで音質重視にするか考慮中。どっちになっても恨みっこなしね。ついでに、市販の006Pで動くエフェクタに対応する(出力9Vの)サブ基板も作るつもり。さらに、何らかの付加機能も組み込みたいのだが……どうなることやら。待ってておくれ。


■主要パーツリスト■

★基板上
  IC 5532(できればJRC製のNJM5532D) *2
  ICソケット DIP8ピン *2
  抵抗(1/4W型5%カーボン)
    100Ω*1, 220Ω*1, 2.2k*1, 3.3k*1, 6.8k*4, 10k*2, 22k*5, 100k*5
  コンデンサ
 セラミック:22p*2, 0.01*2
 電解(無極性 耐圧25V以上):22μ*2
   電解(耐圧25V以上):1μ*1, 10μ*3, 22μ*2
   電解(耐圧6.3V以上):470μ*1
  006P電池スナップ *2

★基板外
  ケース:タカチYM-130 *1
  LED(赤 3φ) *1
  ジャック:モノラル *1
  キャノンコネクタ     XLR-3-31 *1, XLR-3-32 *1
  トグルスイッチ
    3p *2(1個は2pでも可), 3pセンタオフ *1
  DCジャック&プラグ *1組
  スペーサ 3φ用3ミリ *2
  ビス・ナット 3φ10 *2組
   以上の他、配線材、熱収縮チューブなどが必要です。


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