HA12022の
不思議なピンと概略

30年も前にディスコンになった石について何か書くなど思ってもいなかった。希少パーツ趣味はないし、入手難パーツを薦める意図もないのだが、、、
ディスコン直後、買いだめする暇もなく、この石は即座に市場から姿を消した。もう二度と出会えないと悔し涙にくれたのを覚えている。しかし最近になって、流通在庫がまだまだありそう(世界で1万個くらい?)なのがわかり、実際に私も手に入れた。なんと長い別離であったろうか。
HA12022はスタジオ機にも使えるVCA。外付け部品が少なく設計も簡単。電源はプラス/マイナスの2電源で、最大定格は±25VだからDレンジの心配は無用。業務用コンプ/エキスパンダに最適な石だと今でも思っている。(小型エフェクタには向いていない)
トータルな性能を主観的に評価すれば、3080などは「あっち行け」の論外で、同時代のアリソンリサーチあたりのモジュールVCAに比べると少し下、といったところか。モジュール物が数千円したのに対し、この石は数百円だったから、使わなければ損だった。

ところが、この石のデータがどこにもないのだ。データシートを持っていたはずだが、去年の引越しで捨てた大量の紙くずに紛れてしまったらしい(だからゴミを捨ててはいけない)。ネットで探っても「データ求む」みたいなのはあってもデータそのものは無い。
なので、その昔S&R誌で製作したコンプ等を思い出しながら、知っている限りのデータをまとめてみた。もしかして、この石を使おうなどという不埒な考えの人もいるかもしれない。そんな人にだけ、少しは役立ててもらえるはずだ。

ピンが無い! 独自形状です

全体の形は20ピンのDIP。右の写真ではとりたててヘンというものではない(クリックで拡大)。よく見ると1番ピンと20番ピン、10番ピンと11番ピンが金具でつながっているようにも思える。この辺からHA12022のミステリーが始まる。

裏側の写真で謎が解ける。そもそも11と20番ピンは無いのだ。付けといてもよさそうなのに最初から切ってある。入手して「わぁ、ジャンクつかまされた」と怒ってはいけない。これら2本のピンは無くて正常なのだ。
とするとこの石、何ピンなのだろう? 正直に数えれば18ピンなのだが、カタログ屋さんは困ったようで、16ピン(CQの後期の規格表)、16+8ピン(同早期の規格表、これは間違い)とか、ストレートに18ピンとか、20ピンとか、勝手な表記をしていた。16+2ピンが正しいと思うが、そんなのは大事の前の小事。もっとワケがわからないのだ。

ピン番号の怪 独自の順番です

右がこの石のピン配置。独自です! 設計者が16ピンのつもりで作ったらピンが足りなくなったので増設しました、みたい。それなら番号を振りなおせばいいだろうに。
社内でどんな力関係が働いたのか、だれかがデータの訂正を面倒に思ったのかは知らないが、結果として規格表がなければ1番ピンの位置もわからないICになってしまった。
深読みすれば、このIC、機器製造メーカに一括納入することしか考えていなくて、一般人には使われたくなかったのかもしれない。そんなわけないか。

とりあえず使うための規格

上に書いたように、HA12022の規格表やアプリケーションはネット上に皆無に近い。かろうじて右のアプリケーションまがいがロシア語サイトにあるだけ(クリックで拡大)。この回路は間違っていない。多分動く。極性表示のないコンデンサはpF単位。4と13番ピンはCVの入り口で、この回路図からCVの与え方を推測できる。プラスだけでいいようだ。


手持ちのデータで一番使えそうなのが左のCQ規格表(クリックで拡大)。これは1993年版 産業用リニアIC規格表(PART2)からコピーしたもの。
あいかわらずパッケージ形状を間違えているが、それはご愛嬌。最初の能書きから、このICはステレオで使うよりモノチャンネルで真価を発揮するとわかる。
CV対ゲイン(アッテネート量)についても書いてある。この図の定数で-10dB/+1Vになるのだろう(多分)。
その他の 電気的特性にウソはない。入力信号レベルが10Vrmsですよ! オタリのMTRから入れても歪まない。もっともこれは電源電圧が±22.5Vのときだから、普通にオペアンプと一緒の電源で±15Vならもっと小さくなるはず。それでも歪みにくいのは確かだ。
なお、減電圧特性はどこにも書かれていないし、私も試したことはない。±12Vなら動くと思うが、それ以下はちょっと。誰か試してください。

心細いアプリケーション

以前S&R誌で製作記事を連載していたとき、回路設計はブロックごとに分けて担当していた。HA12022は相棒の小沢氏の領分だったので、私はAC-DC変換などの周辺部分しか設計していない。相棒はデータを紙に残すような面倒なことはせず、全部頭に入れてしまっていたのだが、生きてるうちはそれでもいいけれど、死んだ今となっては非常に困る。何もわからないのだ。(おい、地獄からメールくれ)
残っているのは実際の機材の回路だけ。右はコンプの信号系+アルファ。CVさえ適切なら、このまま動く。参考回路として載せておこう。

ということで、「無いよりマシ」程度の資料しか載せられなかった。もしもHA12022のデータシート等をお持ちの方は、ぜひご一報ください。内部等価回路もノドから手が出るほど欲しい。教えていただければ私が独り占めせず、ここで公表いたします。何卒よろしく。
メールはこちらへ。
[追記 2014年2月1日]

東京都の某Chuckさんから、回路図集に載っているHA12022のアプリケーションを送っていただきました。ありがとう。
出典は「電子展望別冊 エレクトロニクス回路アイデア集」(昭和56年)です。ここをド突くと別ページで開きます。
みなさん実験してみてください。

HA12022の基板パターンがどんな感じになるのか、ちょろっと組んでみました(図上のみ)。
そしたら、ひとつ発見。
多分、開発は16ピンのパッケージで始まったと思われます。現在は何にも使われていない15番ピンを負電源にするつもりだった。
15番がマイナス電源だと、パターンはごく普通の引き回しになるからです。
ところが何かの具合で15番ピンが(内部接続か何かで)使えなくなり、仕方なく異例のピン増設。ついでにGNDももう一つ作っちゃえ。
(あるいは、ついでではなく、シールドか放熱の必要だったかも)
そんな気がしてきました。ですから15番ピンはNC(無接続)ではなく、IC(内部接続)と思われます。必ずオープンで使いましょう。

[追記その2 2014年5月11日]

やはり古〜い資料をお持ちの方もいらっしゃるようで、市川市のKさんから2種類ご提供いただきました。ありがとうございます。
まず、カーステレオでFMラジオを安定して聴くためのアダプタ回路の特許申請書(米国)です。
心臓部にHA12022(のような石。ピンが違うみたい)を使い、文言中ではHA12022にも言及しています
------ここからどうぞ------
ごく簡単な等価回路も載っています(5ページ目、fig.6)。多分、基本的にはこれで当たりでしょう。
80年代の初め、クルマの中はうるさいのが当然でしたから、この手のアイディア回路の需要は充分にありました。
私はその頃べレットに乗っていて、100km/h以上だと会話も不可能だったのを憶えています。あ、もちろんテストコースでです。(中央テストコースだったかな?)
それから、この申請書ではコンデンサをcapacitorとは書いていません。これでも通じるんだ。

次は日立のクイックリファレンス。
------ここからどうぞ------
HA120シリーズにどんな石があったか、日立の狙いは何だったのかも推測できて貴重です。
さすがに自社開発ICの説明書だけあって、ピン数は間違えていません。「DP-16-2」になっています。ま、これでも充分わかりにくいですが。
同じような石にHA12039があったのも発見しました。サイドチェーンのアンプまで入れ込んだ石みたいですね。簡易型のトレモロなどに向いてそう。

昔は面白い石がたくさんありました。
ある用途を前提にメーカーが作った石を、そうは行くかとばかり、まったく違う目的で使ったりもしました。
オペアンプだってそうです。709がオーディオに使われるなんて、誰も思っていなかったはず。
そんなのが面白かったんですけどね。


HA12022を入手して、改めてデータを探したら何もなかったことに憤慨し、こんなページを作ってみました。今更どうでもいいようなものの、細々とはいえまだ流通している石のデータが無いなど許し難いことです。メーカーの日立は、そりゃ撤退したでしょうが、だからといって知らん顔の半兵衛はないでしょう。せめてデータpdfくらいネットに上げておきましょうよ。それが製造した責任というもの。Inspire the Nextもいいけれど、過去の資産も大切に。

2014年01月07日 大塚 明


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