新作・旧作 発掘報告班のタイトル
 
 古今東西「名作」と謳われる作品諸々あれど、その蔭に隠れたる真の名作・貴重作品をば御紹介申し上げ、読者諸賢の御参考に供さんと欲する当ページ、御一読の上試聴に及べば地獄の一丁目か極楽浄土、末々成り行きの責任は持てずとも記事内容には絶対の自信あり……昔の宣伝ビラ調に書くとこうなります。
 このページでは、特に音楽のジャンルは問わず、著者が掘り出してきたディスクのうち、録音面で聞く価値のあるもの、聞くべきものを厳選して紹介・掲載します。まずはご愛読のほどを。(編集より)

   えー、今月から不定期で、録音がらみのお勧めディスク紹介を始めたいと思います。不定期ってのは、特に目ぼしいものが見つからなかった月にはお休みってことです。今回はとりあえず3枚。

凡例
●アーティスト名/タイトル
      [リリース元 CD/LP番号] (録音年または発表年)

★今月のお勧めディスク

●Eva Taylor with Clarence Williams / Edison Laterals 4
            [Diamond Cut Productions DCP-303D] (1929,1976,1977)

Eva Taylor with Clarence Williams エジソンは鑞管蓄音器を発明したものの、ベルリナーが発明した円盤レコードに負けてしまったのはご存知の通り。エジソンは1912年にDiamond Discという円盤レコードを出していますが、縦振動タイプで既存の円盤レコードと互換性がないため、あまり売れませんでした。円盤レコードは1925年に電気録音になって以来、俄然音が良くなったわけですが、実はエジソンも密かに電気録音の円盤レコードをテストしていたのです。このCDは、そのエジソンの未発表レコードCD化シリーズの1枚。リリースしたDiamond Cut Productionsは、元々はEdison National Historic Siteの未整理音源をレストアするためのボランティアにやってきた2人のヒューレット・パッカードのエンジニアが始めたレーベルです。レストア作業を進めるうちに、こいつはちゃんとCD化すべきだと思って進言したものの、お役所仕事の遅さにしびれを切らせて、自分達でレーベルを作って出してしまったというわけ。で、驚くのは、その音質の良さ。レストアのために開発された DC-Art という雑音低減WindowsソフトがこのCDでも使われていますが、DC-Artには素材にない音まで作り出す機能はありませんから、ノイズを取って適切なEQを施せば、ここまでリアルな音が入っていたんですね。

 元になったエジソン・レコードのラベルには "COMPARISON WITH THE LIVING ARTIST REVEALS NO DIFFERRNCE" というコピーがついています。意訳すれば「実物と比べても何の遜色もない」という意味。エジソンお得意の宣伝文句のひとつではあったわけですが、あながち誇大広告でもないな、というのが実感です。実はこの電気録音レコード、資料が全然なくて肝心の再生EQ特性が分からなくて苦労したとか。1954年以降のLPなら基本的にRIAAカーブですが、SP時代はレーベルごとにEQカーブが違うのです。古い時代のものだと回転数すらバラバラで、ベルリナーのグラモフォンは57(!)〜72RPMだったそうです。

 で、オマケで、ここで歌ってる Eva Tatlor さんご本人の 76年と77年の録音が入っていますが、これがエジソン盤より音が悪いってのが凄いです。おぉ、50年間のオーディオの進歩はどこ行ったんだ。
 

●About A HUNDRED YEARS
            [Symposium 1222] (1889-1943)

About A HUNDRED YEARS  録音史マニア(っているのか?)必携!。1889年から1943年までの録音の歴史を、まさに歴史的録音で辿る1枚。エジソンの肉声はオンラインでも聴けますが、これにはベルリナーの声や、ウェストミンスター寺院での世界最初の電気録音も入っていますし、TBSで放映したブラームスの唯一の録音も、かなりひどい状態ながら一応聴けます。ホントに食べられるチョコレート盤レコードというのも珍品。録音年順に並んでいるんで、1902年のカルーソーの録音からいきなり音が良くなるのもよく分かります。チェンバレン首相の演説はスチール・テープ録音ですし、42年のヘンリー・ウッドとLSOのリハーサル風景はアセテート盤と、記録メディアによる音の違いも面白いものがあります。また、1932年のベル研のHi-Fi実験録音によるハイフェッツなんかも貴重。有名人の声では、トルストイとレーニン、コナン・ドイルなども入ってます。

 Symposium は歴史的録音の復刻中心のイギリスのレーベルで、同じイギリスのPearlなどと同様に、基本的にノイズ除去をしていないのも歴史的資料としてはまことに結構。こういうの、もっといっぱい出してくれぇ!
 

●Woody Herman & Tito Puente / Herman's Heat & Puente's Beat                              [Evidence ECD 22008-2] (1958)

About A HUNDRED YEARS  お勧めというか、私には謎のレコード。原盤はエヴェレストなんですが、この時期の録音にしては異様にデッドな録音で、なんか70年代みたい。まるでゲートかかってるみたいだし、コンプのかけかたも妙。この時期にこんな音で録るエンジニアって誰だろう? 原盤を知ってるかた、オリジナルもこんな音なんですか? なんか復刻時に無理なノイズ消しをやって失敗したような気もするけど…。

 

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